ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
第7回:2006年ワールドカップ アジア一次予選 オマーン戦「チームにベースがないのが苦戦の原因」
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byKoji Asakura
posted2004/02/19 00:00
「勝てたのはよかった。でも……」
2月18日に埼玉スタジアムで行われた2006年ワールドカップ(W杯)一次予選で、日本はFW久保のロスタイムのゴールでオマーンを1−0で退けた。2006年ドイツ大会へむけて白星スタートを切ったが、試合後に何人かの選手が口にしたセリフであり、多くの人が抱いた感想だろう。
それほど日本は苦戦した。
オマーンは速い寄せでファウルも厭わない勢いで足を出し、MF中田ら主要選手にはほぼマンマークで体を寄せて、自由にプレーさせない。日本がこれに戸惑いボールコントロールを誤ると、パスカットからカウンターを仕掛けてくる。前半28分にFW高原の突破から得たPKを、MF中村がGKアリ・アルハブシに止められるシーンもあったが、日本は相手の出方を警戒してか、全体的に攻撃も慎重で単調となり、サイドも使えなかった。
特に目に付いたのが連係の悪さ。例えば前半15分の速攻を仕掛けようという場面では、中村から前へ走り出したFW柳沢へパスが短くなり、相手にカットされてしまった。似たような微妙なズレは随所で見られた。
これには、FW柳沢やDF山田暢ら、ここ数日チーム内で流行っている風邪で38度の発熱を抱えながらプレーした選手が複数いたことも影響したが、なにより、試合直前に欧州組が合流して、メンバーが代わり、チームとしてプレーを合わせる時間が少ないことが響いた。DF三都主も、中盤から前のメンバーが練習までとガラっと変わるのでは、サイドを上がるタイミングも取りづらいはず。MF遠藤も「中盤三人が代わると動き方も違うので難しい」と話している。
ジーコ監督は「このチームで2週間でも一緒に練習できればかなりレベルの高いチームになる」と話したが、かといって、そうそう時間が取れるわけでもなく、しかも、ただ一緒にやればよくなるものでもない。それはこれまでの1年半でわかっていることではないか?
この日のオマーンのような相手には、速い判断で速いパス回しと動きで崩していくべき。それができなかったのは、そういう速いパス回しを意識した練習が不十分だったこともあるが、致命的なのはこのチームに拠りどころとなるチームの基本となる形=ベースがないということだろう。
チームのベースがあれば、この日のように苦しい試合展開の時に“そこ”に戻れる。しかしそれは、選手の個人能力に依存して、選手にその場その場で考えてやらせるだけでは身につかない。それに、彼らの能力にしても、チームの基本形があってはじめて応用として生きるものだろう。ジーコ監督は「チームのベースはできた」と東アジア選手権後に話していたが、オマーン戦を見る限り、W杯予選を戦い抜けるだけの強靭なものとはとても思えない。
現在のままでは、オールスターゲームのチームと変わりないのではないか。それでは今後の厳しいW杯予選を勝ち抜いていくことはできないだろう。少なくともオマーンは、今回の対戦で勝ち点1を逃したものの、ホームではやれるという大きな手ごたえを得て帰国したに違いない。
また、試合にはベストコンディションの選手を起用するべきで、体調が悪くても欧州組だから起用するということではないはずだ。実際に、この日チームを救ったのはベンチスタートの国内組の久保とMF小笠原だった。
決勝点は、DFへの跳ね返りがたまたま中村の足にうまい角度で当たって、それがノーマークでいた久保へ流れたという幸運があった。だが、GKの動きを読んで打つという久保の冷静さがあったことも見逃せない。なにより、最後まで勝利を諦めない姿勢があったからこその得点だ。その姿勢は評価できるし、勝ち点がモノをいう予選で、ジーコ・ジャパンが最低の部類に入る内容でも勝てたことはよかったと思う。
だがこの試合で改めて、このチームの課題が浮き彫りになったはずだ。次のW杯予選の対戦は3月31日にアウェーでシンガポールとだが、そこである程度ゴールが取れたとしても、課題を解決しない限り未来はない。チームが拠りどころとなれる基本をつくり、連係を練らなければ、日本はこの先のW杯予選でも苦戦は免れないだろう。