北京をつかめ 女子バレーボールBACK NUMBER
Vol.10 大村加奈子 確かな存在感
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byToshiya Kondo
posted2008/04/14 00:00
2007/08V・プレミアリーグ。連覇を目指した久光製薬は、セミファイナルで敗れて決勝の舞台に進めず、3位でシーズンを終えた。4月6日の3位決定戦の後、大村加奈子(久光製薬)は、「長いリーグが終わって、正直ホッとしました」と話した。
今シーズン、センターの大村は、ブロックに磨きをかけてきた。テーマは「ワンタッチを取ること」。久光製薬の真鍋政義監督には、「ブロックは、止めるだけが仕事じゃない。ワンタッチを取ってレシーブにつなげるという、目に見えない部分がすごく大事」と口酸っぱく言われてきたという。
「数字には残らない部分だけど、縁の下の力持ちというか、何か一つでもチームのために貢献できたらいいなと思ってやってきました」
サイド攻撃のスピードアップに対抗するために、久光製薬では、データ分析により、あらかじめレフトかライトかどちらかに賭けることで、動き出しを速くするブロックを取り入れた。
しかし、最初、大村はこのやり方に抵抗があった。その賭けが外れた場合、結果的に相手の攻撃とは逆の方向に走ることになるからだ。
「端から見たら、『なんで逆に走ってんの? 大村さん』って思われるじゃないですか。最初はそれがすごく嫌でした」
しかし、監督の指示の通りにやっていくうちに、その効果を実感できるようになり、納得して動けるようになった。
「やっぱり、チームに貢献しているんだという部分を見つけないと、選手はやっていけないじゃないですか」
久光製薬では、「チームに貢献している」と思える、明確な役割がある。
全日本では、どうか。
昨年、大村は、全日本での自分の役割について悩んでいた。
2004年のアテネ五輪には、ウイングスパイカーとして出場した。その後、久光製薬でセンターに転向。昨シーズンはセンターのレギュラーとして、V・プレミアリーグ優勝に貢献し、2004年以来の全日本に選ばれた。
しかし、全日本での登録ポジションは「ウイングスパイカー」だった。センターとサイドの両方をこなせることは武器でもあるのだが、大村自身にはどっちつかずに感じられた。自分が何を求められていて、どこで力を発揮すればメンバーに残れるのかが、わからなかった。
「私は一体何を頑張ればいいんですか?」
たまりかねて、大村は、柳本晶一監督に自ら尋ねた。
それに対し、柳本監督は、「ブロックやスパイクはもちろんだけれど、竹下(佳江)を支えてやってほしい。それに、誰とでも仲良くしゃべれるのはお前だけやから、チームの潤滑油的な役割を果たしてほしい。でも、お前は今それができているから、そのままでええんや」と答えた。
「なんや、今のままでええの?」と、こわばっていた肩の力が抜けた。
昨年11月に開催されたワールドカップ。大村は、コートに立つ機会はわずかだったが、アテネ五輪以降ずっとそこにいたかのように、自然とチームに溶け込んでいた。
竹下は、大村の存在感の大きさを認める。
「キャリアが豊富だし、いろんな知識も持っているレベルの高い選手。精神的に、チームにとってすごく大事な存在です。勝負所をわかっているので、“この1本”というところに強いですし。個人的には、私が19歳で初めて全日本に入った時から一緒にやらせてもらっているので、気心が知れていて、いろんな相談を持ちかけやすいんです」
目には見えない、数字には表れない。けれど、大きく、確実な存在感。
次の舞台は、5月17日、北京五輪世界最終予選。勝負所を知り、包容力のあるベテランは、過酷な五輪切符争奪戦の舞台には欠かせない。