MLB Column from WestBACK NUMBER

WBC、本来の意義を問う 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2006/01/27 00:00

WBC、本来の意義を問う<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 折角の年明け最初のコラムということで、明るい話題を取り上げようと様子を伺っていたのだが、なかなか興味をそそるニュースが聞こえて来ぬ間に無駄に時間が過ぎてしまった。仕方がないので年頭から苦言を呈することをお許し願いたい。

 皆さんはワールド・ベースボール・クラッシック(以下WBC)をどう捉えているのだろうか?メジャーリーグの肝煎りでようやく今年3月に開催され、メジャー選手が総出で参加する野球の国際大会ということで、楽しみにしている方も多いことだろう。前々回でクレメンス投手を取り上げた際に、彼のWBC参加に期待しているように、自分自身も今なお興味を抱いているのは間違いない。だが、年明けから報道されるWBC関連のニュースを見聞きする内に、何とも言えないモヤモヤ感が身体中を包んでいったのだ。WBCが本当の意味での国際大会として成立できるのか──という疑問だ。

 真っ先に挙げられるのがキューバの参加問題で浮き彫りになった、大会運営の二重構造だ。最終的にキューバ参加に反対していた米財務省が翻った格好で、問題は一応の解決をみた。とはいえキューバが参加できなかった場合は、国際野球連盟(IBAF)がWBCの公認を取り消すと公言していたとおり、いきなり「国際大会」の看板を下ろされなければならない事態だったのだ。

 元々WBCを主催するメジャー機構側は、世界の2大スポーツであるサッカーのワールドカップやバスケットの世界選手権に匹敵する大会を目指しているはずだ。しかしサッカーの場合はFIFA、バスケットがFIBAと、それぞれの国際大会を主催しているのに反し、今回のWBCは明らかにメジャー機構の意向だけがまかり通ってしまっていないだろうか。IBAFは大会を公認しているお飾り的な団体であり、実権を握っているのはメジャー機構だということだ。その構造は、機構側にほとんど影響力がなく、ごく一部(1チーム?)の人気球団が幅を利かせている日本球界に酷似していないだろうか。日本球界で様々な問題が噴出して改革を迫られている現状は、その二重構造にも大いに原因があるはずだ。WBCが将来的に現在の体制のままでいけば必ず歪みが生じてくるだろう。

 さらに昨年日本が参加要請を受けた際、開催時期について疑問を呈すと、メジャー機構側は「参加しないのなら、今後一切WBCに参加させない」と恫喝まがいの対応をしておきながら、結局は3月開催がメジャー各チームの対応をまちまちにし、松井秀喜選手や井口選手の出場辞退を引き起こし、ひいてはリトルリーグのような、投手の投球数制限まで生み出してしまった。これもTV放映権等の絡みで、3月開催で押し切ったメジャー機構側の過失だろう。

 一度綻びが目についてしまうと次々に疑問点が沸いてしまうものだが、チーム構成についてもそうだ。今回の参加は16チームだが、そのうちキューバと中国を除く14チームに必ずメジャー選手が所属している。最近ではガルシアパーラ選手がメキシコに、さらにピアザ選手がイタリアに加わることが発表されている。確かに彼らの家族はそれぞれの国出身とはいえ、両選手ともに純然たる米国生まれだ。以前にA・ロドリゲス選手が米国か、それともドミニカとして出場するかで話題になったが、彼の場合ドミニカの母国語スペイン語が流暢に話せるほど、ドミニカの距離が近かった。だが、ガルシアパーラ、ピアザ両選手がスペイン語やイタリア語を話せるなどとは聞いた試しがない。果たしてこの2人にそれぞれの参加国にどれだけの愛国心を感じているのか疑わしくなってくる。

 ちなみに昨年IBAFが開催したワールドカップに18ヵ国が参加。そのうち強豪といわれるニカラグアなど6ヵ国が今回のWBCには参加していない。下手な勘ぐりかもしれないが、予選から人々の注目を集められるように、メジャー機構側がメジャー選手を振り分けられるチームだけを集めたと思われても仕方がないだろう。前述通りキューバが参加したことでIBAFの公認を取り付け、何とか国際大会の体裁は整えているが、実情はシーズン開幕前に行われるメジャー選手たちの“国別対抗戦”という余興イベントに思えてきてしまうのだ。

 日本からも日本チームのWBCでの活躍を期待する報道が次々に伝わってくるが、このまま手放しで参加していいのだろうか。このままではメジャー機構側のお先棒を担がされ、余興イベントに利用されるだけになってしまうかもしれない。今後WBCをサッカーのワールドカップのような国際イベントにしたいのなら、メジャー機構の独断専行を許さない、毅然とした態度ができる対抗勢力が必要になってくるはず。それを日本に期待するのは間違いなのだろうか…。

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