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欧州ラウンドで消えたバトンの姿。
揺らぎはじめたF1初戴冠。 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2009/09/09 11:30

欧州ラウンドで消えたバトンの姿。揺らぎはじめたF1初戴冠。<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

開幕戦から7戦で6勝という驚異の快進撃はどこへ……。ここ5戦ではわずか11ポイントしか獲得できていないJ・バトン。2位バリチェロとの差は16ポイントまで縮まっている

冷涼な欧州の気候がブラウンGPの弱点を暴いたのか?

 ひとつ言えることはマシンである。ブラウンGPチームが開発の滞りで基本的にアンダーステア(ステアリングの舵角よりもマシンが外側に行こうとする現象)のマシン特性を改善させることができず、空力のアップデートでポテンシャルを上げて来ているライバルの追撃にたじたじとなっているのは事実だ。

 ブラウンGP追討の急先鋒は言わずと知れたレッドブルで、かのチームは空力のアップデートが急速に進んでイギリス、ドイツと連勝。強いダウンフォース(空力でマシンにかかる下向きの力)によってタイヤのグリップ力を存分に引き出せるのがセールスポイントで、ハンドリング特性はブラウンGPとは逆にオーバーステア(舵角より内側に切れ込む)傾向。サーキットはおおむねマシンの走り込みによって路面にタイヤのゴムが付着し、自然にグリップが上がるとアンダーステア傾向に転ずるから、レッドブルのハンドリングは理想的なニュートラルステアに落ち着く。クルマが滑らずタイヤの負担を軽くするからより速く走れる好循環に入るメリットがあるのだ。

 そこへいくとブラウンGPのマシンは、バランスはいいものの基本的にはダウンフォース不足で、タイヤが滑る。そういえばイギリスGPあたりからバトンが予選やレース中にしきりにマシンをウィービング(大きなジグザグ走行)させているシーンを見せていたが、あれはタイヤに熱を入れて少しでもグリップを高めようとしていたのだろう。そうしてみるとシーズン前半戦は南半球や赤道近くでのレースが続いたことで黙っていてもタイヤに熱が入ったが、涼しいヨーロッパ戦に来たら、それまで見えていなかったブラウンGPの弱点が露わになったということか。気象とマシン特性の相減効果(!?)。バトンのスランプの因子はこの辺にありそうだ。

単にマシンやタイヤの問題では無いとしたら……。

 しかし、ベルギーでの不振はそれだけとは思えなかった。14位に終った予選後のコメントは「ソフトタイヤでのグリップのなさには本当に戸惑った。この週末ボクのクルマはついに真っ当なバランスにならなかった。ソフトタイヤを履いた時に後輪のグリップを全然感じることができず常に不安定で、自信を持ってブレーキングすることができなかった」というものだったが、これを聞いたタイヤ・エンジニアは「ジェンソンがいままでブレーキングでこんなことを言ったことあったっけ?」と、首を傾げたほどだ。ただ単にブラウンGPのマシン特性の問題なら、バリチェロがQ2を6位で突破したことの説明がつかない。

 となると思いつくことはひとつ。バトンのメンタル面の乱れである。来季以降の契約に何かが起きたか、あるいは自らの不振の影に怯えているのか。よもや熱愛のかの“君”との間に秋風が吹き始めたわけでもあるまいが、シーズンは残り5戦。2位バリチェロとは16点、3位ベッテルとは19点差。まだまだ前半戦の貯金残高は大きいとはいえ、決して逆転不可能な数字ではなくなった。

 次戦はヨーロッパ・ラウンド最後の超高速イタリアGP。ダウンフォースを減らしたブラウンGPのタイヤがどこまでグリップするか。モンツァの戦いはバトン初戴冠への道に青信号を灯らせるか、あるいは黄信号となるか。終盤フライアウェイ4戦開始を前にしての、面白いレースになりそうだ。

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ジェンソン・バトン
ブラウンGP

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