EURO2004 決勝弾丸観戦記BACK NUMBER
第2回 穏やかな決勝の迎え方。
text by
川端裕人Hiroto Kawabata
photograph byHiroto Kawabata
posted2004/07/04 00:00
決戦前日は土曜日。休みの人も多いから、朝から広場で大騒ぎ。
というような光景を見ないのが、ポルトガルののんびりしたところらしい。だからこの時点で「リスボンは燃えているか」と聞かれれば、「ノー」と答えるしかない。
でも、こういうのんびりムードは悪いことじゃない。こっちもリラックスした気分でいろいろな人たちに話を聞いているうちに、楽しい気分になってきた。
ポルトガルって実にいいところだ。
まずはギリシア人との対話。
ポルトでの準決勝からの居残り組と新規参入組が合流して、街では青いユニフォームが目立ち始めている。国旗を古代の哲人が着ていたローブのようにぐるぐる巻きにしている姿もよく目につく。
年齢が近いこともあって、話し込み、ランチを一緒に食べたのがフィリップとバシリーズが率いる六人組。ドイツ在住で、準決勝のために車で25時間かけてやってきて、そのまま「帰れなくなった」。
「ギリシアという国のよい宣伝になったよ。ポルトガルにとってもそうなんじゃないか」
「今回の大会は『サンドイッチ』なんだ。ヨーロッパのほぼ全部を挟む西と東の貧しい国が、最初と最後の試合で戦うんだからね」
などと冷静に分析(?)してくれる。
「鍵を握るプレイヤーは誰?」と話を向けると、眉間に皺を寄せつつ、がほとんど同時に「いない」と答えた。「ギリシアは全員で戦うチームだ。オットー・レーハーゲルが、我々にに協調することを教えたんだ」
ちなみに、この質問をほかのところでぶつけてみても、必ず判で押したような答えが返ってくる。「特定のキープレイヤーはいない。レーハーゲルがチームをまとめた」と。中には「レーハーゲルを内閣に」という人までいて、彼の人気はいまや絶対的だ。
「優勝したら、どうなる?」とさらに聞いてみた。
「感激のあまり、その場でつっぷすね」
「天と地がひっくり返ったみたいに感じるだろうね。アテネはオリンピックの分までお祭りだ」
「じゃあ、負けたら?」
「絶対勝つと思う、いや、やっぱり負けるかな」
「……でも、まあ、彼らは十分によくやったよ」
なんだか、この期に及んでも、街ののんびりムードに影響されたのか、初心のまま欲をかいていないギリシア人なのだった。
ポルトガル側は、この際だから、コアなサッカーファンの話を聞きたくて、リスボン市外のアルコシェテという街を訪ねた。スポルティング・ボストンが所有するトレーニング施設があって、ポルトガル代表の宿舎になっている。
ファンが入れ替わり立ち替わりやってきては、車の出入りでゲートが開くたびに中に向かってエールを送っている。宿舎自体は木立の向こうで見えないのだが、選手が何かの用で出てきた日には、とんでもない大騒ぎになる。選手たちもフレンドリーだ。自転車に乗ったリカルドやパウレタが、ゲートの近くを通るたびににこやかに手を振る姿をみて、ほとんど信じられない気分。
「キープレイヤーは?」と例の質問をした。
「フィーゴ」「クリスティアノ・ロナウド」「ヌノ・ゴメス」「パウレタ」と口々に答えが返ってくる。これは本当にわかりやすい。前線に近い選手がまず頭に浮かぶのだ。「マニシェは?」「デコは?」「リカルド・カルバーリョスは?」と問うとやっと思い出して「そうね、彼らも大事なプレイヤーね」ということになる。じゃあ、全員じゃないか。
そして、例の質問。
「優勝したらどうなる?」
「お祭りね」と近くのおばちゃんが間髪入れずに答えた。
「じゃあ、負けたら?」
「絶対勝つわね。負けたとしても、その時にどうするか考える……」
そう言ってから、遠くを見る目になった。
「でも……負けたとしても」と言う。
「負けたとしても?」
「やっぱり、お祭りね」
やっぱり、ポルトガルって、いい所だ。