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これもサッカー 

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西部謙司

西部謙司Kenji Nishibe

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/07/05 00:00

これもサッカー<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 正直いって、なんともはやの結末であった。

 まずはギリシャの健闘を称えよう。強固なマンマークのディフェンスとディシプリン、レーハーゲル監督の念入りの仕込み。開催国ポルトガルに二度勝ち、スペインと引き分け、フランス、チェコを破ったギリシャの優勝は文句のつけようもないものだ。しかし、いつまでも歌が止まないギリシャサポーターを別にすれば、ポルトガル人はもちろん、記者席を埋めた各国の人たちも一様にゲンナリした顔つきをしていたのも事実であった。

 決勝の90分間で、ギリシャが放ったシュートはわずか4本。枠に飛んだのは1本きり。だが、その1本のシュートが決勝点となった。57分、右CKから二アポストで長身のカリステアスがきれいに合わせた。まるで準決勝(チェコ戦)のリプレーを見るようなゴールだった。

 決勝当日は雲1つない快晴。試合前、プレスルームのテレビには地元RTP1の映像が流れていた。ポルトガルのチームバスが合宿所を出てスタジアムへ到着するまで、テレビカメラが追い続ける。沿道には旗やマフラーを振って声援を送る人々、バスの前後はパトカーで固めているが、その周囲にはオートバイで伴走する人々。やはりポルトガルの国旗を持っている。雰囲気は最高、舞台は主役を待っていた。

 ポルトガルはフェリペ監督の予告どおりベストメンバー。ギリシャは攻撃の核になっていたカラグーニスが累積警告で出場できず、準決勝で好調だったジャンナコプーロスがスタメンに入った。フォーメーションは双方とも4−3−3(あるいは4−2−3−1)のがっぷり四つ。スイーパーのデラスを中心に厳しいマンマークで守るギリシャ、圧倒的にポゼッションするが攻めあぐむポルトガル。序盤はそれまでのギリシャの試合で毎回見られた展開。今回は記者席が1階のピッチに近い場所だったこともあって、ギリシャのディフェンスの厳しさ、迫力がひしひしと感じられた。カツラキス、セイタルディス、デラスの3人は特に体の寄せが早く、読みも鋭い。ポルトガルの切り札であるフィーゴ、ロナウドのドリブルをもってしても簡単には抜かせてくれなかった。

 ポルトガルにとって不運だったのは43分のミゲルの負傷交代だ。前線ががっちりと抑え込まれた状況で、右サイドバックのミゲルの上がりは1つの突破口になりそうだった。13分には惜しいシュートも放っていた。ジャンナコプーロスとボールの取り合いになったときにヒジが脇腹に入り、苦しそうにしていたが、ついにパウロ・フェレイラと交代。ポルトガルはポイントになりそうな攻め手を前半で失ってしまった。

 日が落ちて涼しくなった後半も、前半と同じ展開が続いた。攻め崩せないポルトガルに対して、ギリシャが久々の反撃に出る。バシナスがタイムリーなサイドチェンジで右サイドのセイタルディスを走らせる。クロスはロナウドが阻止したが、その右CKからカリステアスが値千金のヘディングシュートを決めた。

 ポルトガルはすぐにルイ・コスタを投入、攻めに攻めるがギリシャはゴール前で鉄壁のディフェンスを見せる。クロスはことごとく跳ね返した。ポルトガルは最後のカード、ヌーノ・ゴメスを投入。ロナウドのフリーシュート、右をえぐったフィーゴのクロスと、続けざまに決定的なチャンスを迎えるがゴールを割れない。ゴール前に釘付けのギリシャは攻撃を諦め、2人の守備要員を入れて1点死守の覚悟を決める。

 終了10分前に、青と赤の旗を持った男がピッチに乱入するハプニング。これでロスタイム表示は5分。しかし、その5分間もカギをかけたギリシャゴールをこじ開けるには至らなかった。

 お詫びしなければならない。開幕戦のリポートで、1試合を見た限りでは、どちらも優勝を争うようなチームには見えないと書いた。その2チームが決勝を戦ったのだから、不明を恥じるばかりである。ただ、ギリシャはともかく、ポルトガルはその後に違うチームに変貌していた。開幕戦をもう一度見ても、やはり同じ感想を持っただろう。しかし、決勝はまさに開幕戦の再現だった。いや、ポルトガルは開幕よりもいいチームだったが、それでも結果は同じようなものだった。では、ギリシャは優勝に値しないチームなのだろうか。そんなことはない。戦術が古かろうと、ディフェンシブであろうと、彼らは紛れもないチャンピオンだ。そして、これもサッカーなのである。

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