オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
キリンチャレンジカップ VS.ガーナ
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2006/10/06 00:00
ひとつのチームが作られていく工程を見ていくのは面白い。新しいチームは選手も集められたばかりで、それゆえ、早々になにかがすばらしく機能することなど、まずあり得ない。結果が出ないことも珍しくない。その中で、チームの発展を予感させるような何かが見つけられれば、興味はさらに増す。それが日本代表となればなおさらだろう。
10月4日に横浜の日産スタジアムで行われたガーナとの親善試合は、そういう類のものだった。試合の結果は、73分に右サイドを破られて、交代出場のハミヌに決められ、1点に泣いた。
0−1の敗戦とはいえ、オシム監督就任後5試合目にして初の強豪相手の試合で、ようやく前線と中盤のリンクや、ワンタッチでの早いパスワークでの崩しや仕掛けが見られるようになった。
ガーナは、試合直前の来日でコンディション面では万全とは言いがたかったが、今夏のワールドカップで初出場ながらも2回戦に駒を進める活躍を見せたチーム。当時のスコッドから11人を含んだ来日メンバーには、チェルシーMFのエシエンやフェネルバフチェMFのアッピアがいた。
強靭なバネを生かした瞬発力で競り合う相手をぐっと抜き去る速さと力強さ、当たり負けなどしない頑強な身体、日本のミスに乗じてカウンターからゴールを脅かす鋭さなど、W杯決勝トーナメント進出というプレーの片鱗があちこちに見られた。
そのガーナを相手に、日本は3−4−3で臨み、代表デビューのMF山岸(千葉)を含んだ攻撃陣は積極的にチャンスメークに動いた。
特に、前半11分のMF鈴木(浦和)→MF三都主(浦和)→FW巻のコネクションや、同44分のMF駒野(広島)→FW巻→FW佐藤寿人(広島)というつなぎからゴール前へ走りこんだMF遠藤(G大阪)へとパスを出した得点機、後半11分に巻がポスト役を務めて左サイドの佐藤寿人からゴール前へ走りこんだ山岸へとつないでポストを叩いた場面などは、チームの将来的なオートマティズムをイメージさせるものだった。
「チームとしてやるべきことや狙いというのが、だんだんわかってきた」と鈴木は手ごたえを口にした。
ディフェンス面でも新たな展開を考えるオプションが増えたのではないか。
前の試合まで4戦連続でレギュラーを務めてきた坪井、闘莉王(ともに浦和)、加地(G大阪)の3人を負傷で欠き、今回急遽編成された最終ラインで臨むはめになっていた。だが、代表初キャップの水本(千葉)とジーコ体制下での2005年6月17日のワールドカップ最終予選イラン戦以来の出場となった今野(FC東京)は、スピードを武器とする相手攻撃陣に対して、リベロの阿部(千葉)を中心に激しくファイトした。
決定的なシュート場面も何回か作られ、GK川口の好セーブに大いに助けられたところはあるが、所属クラブではディフェンシブハーフが本業の今野は、フィジカルの強さと読みのよさ、さらに、チャンスがあれば攻撃参加するプレーの幅を感じさせるパフォーマンスを見せるなど収穫は小さくない。
チーム全体でのミスの多さは修正すべきところで、相変わらずのシュート力不足もあったが、チームの将来像が少し顔をのぞかせたこと、新しい人材が発掘されたことは今後に向けて好材料だろう。
試合後、オシム監督は言った。
「試合には負けたのだから満足などしていない。だが、大事なのはガーナのような強い相手にチャレンジすること。そのチャレンジはある程度のところまでは成功したが、フィニッシュまでは行かなかった」
さらに指揮官はこう続けた。
「今日の試合でまだ伸びるという可能性は感じられたのではないか。日本選手の戦術的理解は問題ない。だが、個人のスキルやアイデアの豊かさを、相手から受けるプレッシャーの中でどこまで実行できるか。それは勝ち負けを決めるには十分大きな差だ」
日本代表は今回のチームを元に10月11日のアジアカップ予選インド戦のスコッドを組んで、試合開催地のバンガロールへ乗り込む。アジアカップ本大会出場をすでに決めた日本。掴みかけたオシム・ジャパンチームのプレーの形が、異なったレベルの相手とのアウェーでの試合でどう展開されるのか。興味深い。