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ジーコ 「いまこそ本心を語ろう」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
posted2006/09/28 22:31
インタビューはジーコの質問から始まった。
「サウジに行ったんだって?― どうだった?日本のNHKを観てたんだけど、ほら、放映権の問題とかで映像は観られないだろう?」
メンバー表を渡すと、「駒野が左サイド?システムは4-4-2?」と質問が続く。控えメンバーまでひとりずつ声を出して読み上げる。しばらく彼はA4の紙を見つめていた。
トルコの名門フェネルバフチェを率いる前日本代表監督は、ボスフォラス海峡を見下ろす高層ホテルを仮の住まいとしている。9月4日のイスタンブールは好天に恵まれ、17階の部屋には午後の陽光が差し込んでいた。
──どうですか、トルコのサッカーは?
「あまり守備に気を配らない。身体能力を生かして、とにかく点を取りに行く感じだ。私もこちらのサッカーに合わせながら、少しずつ戦術的な部分を取り入れようとしているが、選手の頭が慣れていないから」
──代表とは仕事の進め方が違うでしょう?
「毎日練習できるし、ミスの矯正もできる。代表では何か課題があっても、再集合をかけられるのは1カ月後だったりするからね。そういう意味でクラブはやりやすい。矯正が早くできれば、チームはどんどん伸びる」
──日本代表を率いた当時は時間が少なかった、と改めて感じますか?
「それはどこの国の監督も同じだが、あれだけ技術を持った選手がいたから、もっと一緒に練習ができていたらという思いはある。クロスの練習ひとつでも、クラブならできるまで繰り返しやらせることができるし、今日がダメならまた明日という継続性が持てる。代表はそうもいかない。選手が自分なりの意識を持って、クラブで課題に取り組んでくれるかどうかに頼らざるを得ないんだ」
──ワールドカップが終わったあと、「できることはやった。すべてを出し切った」と話していました。それでもやはり、計算違いや後悔はあったのではないですか?
「自分の見解は変わらない。あの記者会見のときと同じ気持ちだよ。まず時間帯の問題があった。午後3時開始を2試合続けたチームは、すべてグループリーグで敗退している。この事実は無視できない。オーストラリア戦は80分までは悪くなかった。相手の監督がどんどん長身の選手を出してきて、ハイボールやロングボールを多用してきた。そこで逆に追加点を決めていれば、まったく違う結果になっていたと思う」
──失点については?
「1点目のことを言えば、中田浩二にロングスローを投げさせて、事前に30本ほどああいう場面を想定した練習をしていた。練習では川口は一度も飛び出さなかった。あの日の彼は本当に調子が良かったし、あれぐらいノッていれば自分で処理しようという気持ちになるのは分かる。彼を責めるつもりはまったくないけれど、練習どおりでないプレーがネガティブな結果をもたらすことは、サッカーではしばしば起こりうる。あと8分だった。あの8分のために、我々はグループリーグで負けてしまったようなものだ」
──なるほど。
「初戦に勝てば当然勢いがつく。次のステージへ行ける確率も高くなる。それに、ブラジルがクロアチアに勝っていた。日本がオーストラリアに勝っていたら、第2戦は非常に余裕を持って戦うことができたはずだ」