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カッサーノがスペインに馴染む可能性。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/01/25 00:00

カッサーノがスペインに馴染む可能性。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 スペイン人とイタリア人。飛行機で2時間、電車でも10時間あれば行くことができる距離にありながら、どこか互いに毛嫌いしている。彼らはともにラテン気質で、スペイン語で10歳レベルの語学能力があれば、イタリア語も多少は理解できる。大久保(マジョルカ)や福田(カステジョン)が1年間かけてスペイン語を覚えても、6歳児のイタリア人にはかなわないかも。それほど、似ている。だから、イタリア人の監督も選手もフィジカルトレーナーも、スペインで言葉に不自由することはない。

 でも、彼らの間には深い溝があるのを感じる。なぜか、近いのに遠い。

 たとえば、ファッションではスペインはイタリアにかなりの遅れをとっている。スペイン人は服装(ブランド)にあまりこだわらない。街にはジャージ人が溢れている。最近では、サッカー選手たちも田舎のあんちゃん風からビッククラブ風になってきてはいるけれども、それはバルセロナとマドリッドあたりだけ。イタリア料理にしても、スペインではまともなパスタは食べられない。車にしても、イタ車とスペ車は雲泥の差だ。そうなると、イタリア人から見てスペインはダサイとなる。着飾らないで気軽な気持ちでいられるのは楽チンなのはわかっているくせに、たぶん理解しないだろう。

 逆に、スペイン人はセリエAをダサイという。美しさのかけらもない、と、どこかで聞いたセリフを今度はサッカー場で耳にする。イタリアのスタイルは結果主義でそれはそれでわからないでもないのに、たぶんスペイン人に理解する気はない。見た目がキザ。中身がないナンパ野郎。これは、代表的なスペイン人の意見でして……。

 だが、まったく肌が合わないわけでもない。

 若かりしころのラファ・ベニテスはアリゴ・サッキがいたミランで研修したというし、スアレスはインテルで功績を残した。カペッロとパヌッチは96−97シーズンにスペイン・リーグを制し、97−98シーズンではビエリがアトレティコで得点王に輝いている。カルボーニ40歳はバレンシアで9シーズンも過ごしている。

 しかし、イタリアとスペインは水と油、犬と猿、ハブとマングースに思えてたまらない。イタリア人がスペインで成功するのはほんの10パーセント。あとの90パーセントは1年で追い出される。

 今冬のオフが明けたばかりの頃、バルセロナの練習場にラニエリの姿があった。フィオレンティーナ、アトレティコ、チェルシー、バレンシアと渡り歩いたイタリア人も、FCバルセロナが気になってしかたがなかったのだろう。彼は90パーセント組である。

 バレンシアでラニエリが指揮を執った2004−2005シーズンは、なんと、5人ものイタリア人が揃っていた。カルボーニ、モレッティ、フィオーレ、ディ・バイオ、コラッディに加え、スタッフもイタリアで染まった。が、無理難題だった。彼らはやっぱり、水と油。90パーセントの壁。サッカー文化の違いが、ラニエリを解雇に追い込んだように映った。

 そんなところで、異端児カッサーノはどうなんだろうか。デビュー戦となった国王杯の対ベティス戦では後半途中から出場したかと思えば、わずか3分で試合を決めるゴールを叩き込んだ。運はある。ロナウドよりは走れるおデブさん。10キロオーバーの体重を4キロ減量したが、まだまだ身体は重そうだ。90分間は持ちそうにない。

 ローマでは問題ばかり起こしていたというカッサーノも、現在のところ鳴りをひそめている。「いまの彼女といるとすごく精神的に落ち着いていられる」のが、安定剤となっている。しかし、過去にカッサーノはバリのトップチームと契約したとき、それまで付き合っていた彼女をあっさり捨てたという。「もう、お前はオレの彼女にふさわしくなくなった」と。いまの彼女はカッサーノをいまのところコントロールできているみたいだ。カッサーノがスペイン・リーグで数少ない10パーセント組に入るには、ガールフレンドの腕にかかっているかも……。

カッサーノ

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