Column from EnglandBACK NUMBER
古豪ニューカッスルの苦悩と迷走。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images/AFLO
posted2006/01/20 00:00
ニューカッスル・ユナイテッドは呪われているのだろうか?そうとでも思わなければグレアム・スーネス監督は到底納得できないだろう。
今シーズンのニューカッスルは、100億円近い予算を使って積極的な戦力補強を行ったにも拘らず開幕から故障者が続出。しかも思うように増えない勝ち点とは対照的に、エムレ、キーロン・ダイアー、クレイグ・ムーア(いずれもハムストリング)、スティーブン・カー(ヘルニア)、スティーブン・テイラー(肩)と、故障者の数は増える一方だ。
挙句の果てには、大晦日のトットナム戦でマイケル・オーウェンが負傷。新エースの右足第5中足骨骨折(全治2ヶ月半)で、災難続きの1年にもさすがに終止符が打たれるかと思われたが、そうは問屋が卸さない。年明け早々には、中盤でチームのダイナモとなっていたスコット・パーカーまでが膝の手術を余儀なくされてしまった。
「1週間で中心選手が2人(オーウェンとパーカー)も手術を受ける羽目になるとは…。現時点で使える選手の顔ぶれと頭数を考えれば、厳しい戦いを強いられても仕方ないが、苦境に立たされたときにこそ自分たちの真価が問われることになる。一致団結して戦い抜くのみだ」
スーネスは力強く語るが、その表情には悲壮感が漂う。
そもそもスーネスに関しては、昨シーズン途中に監督に就任した当初から短命政権になるという見方が強かった。さらに昨年11月のリーグカップ戦で、主力を温存したウィガンに1−0で敗れたことで、退陣要求の声は一気に高まった。「審判の日」になると思われていたのは、1月7日、FAカップでのマンスフィールド・タウン戦。結果はニューカッスルが1−0で勝利を収めたが、スーネスにとっては刑の執行が数試合先送りされたにすぎない。
事実、この試合でもニューカッスルは、リーグ2(4部)で苦しむチームに中盤を支配され主導権を握られている。後半35分に生まれた決勝ゴールが、絶対的なヒーローであるアラン・シアラーによるものでなければ、そしてそのゴールが、ニューカッスルの伝説の選手であるジャッキー・ミルバーンと肩を並べる、記念すべきクラブ通算200得点目でなければ、試合後のスタジアムにはブーイングがこだましていたに違いない。
スーネスに落ち度があったとすれば、マンマネージメント(人身掌握術)の至らなさであろう。スーネスと袂を分かったクレイグ・ベラミー、ジャーメイン・ジーナス、ジェームズ・ミルナーらは、それぞれ移籍先で持ち味を発揮している。純粋に能力面だけを考えれば、いずれも手放すべき選手ではなかった。彼らが持ち駒として残っていれば、勝ち点はわずか26、成績は11位というような屈辱的な形でシーズンを折り返すような展開にはならなかったのではないだろうか。
だが、不調の全責任をスーネスに負わせることはできない。ニューカッスルの最大の弱点はディフェンスだといわれているが、これは数年来解決できないままになっている問題だからだ。タイタス・ブランブルとジャン・アラン・ブームソンのCBコンビは、体の大きさと移籍金の高さ(両者合計26億円)ならトップクラスだが、信じ難いほど安定感に欠けている。特にブランブルは、敵のサポーターから拍手を浴びるほど致命的なミスが多い。そのブランブルでさえ、痛み止めの注射を打って出場させなければならないというのだから、チームの状況は本当に深刻だ。
スーネスは、「私が監督を辞任することなどあり得ない。何があろうと最後まで仕事を全うしてみせる」と強気な姿勢を崩さないが、フレディ・シェパード会長が、監督解雇という「常套手段」に訴えるのは時間の問題だろう。昨シーズン序盤、いとも簡単にサー・ボビー・ロブソン前監督の首を切ったように。
もっとも、指揮官の首を挿げ替えたところで根本的な解決が約束されているわけではない。それどころかニューカッスルには、今シーズン限りでシアラーが引退するという艱難も待ち構えている。光明はいつ訪れるのか。古豪の苦悩と迷走は続く。