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From:セビーリャ「ベティス・グリーン」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/11/09 00:00

From:セビーリャ「ベティス・グリーン」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

気持ちを「グリーン×白」に染めてくれたベティス。

この世の「悪」チェルシーを粉砕してくれた。

こうした痛快劇にはまた出会いたいものだ。

 いつか僕はこのコラムで、セルティックの「グリーン×白」を絶賛した。サッカーグッズを買う趣味はないが、セルティックの横縞ユニフォームには、毎度心が動かされると。

 ところがいま、その件について、訂正させて頂きたい気分に襲われている。お気に入りには違いないのだが、それ以上に鮮やかな「グリーン×白」が、この世の中にあることを、うっかり忘れていたことに気付いたのだ。

 それはスポルティング・リスボンだ。いや違います、失礼。同じイベリア半島内で、リスボンより僅かに南に位置する都市、アンダルシアはセビーリャに本拠地を構える老舗クラブといえば、もうお分かりだろう。

 レアル・ベティスである。

 こちらについては、グッズを購入するという禁を犯した過去がある。トレーニング用ジャージーの上下ワンセットを「ルイス・デ・ロペラ」のファンショップで、3年ほど前に衝動買いしたのだ。

 僕はセビリア人でもないし「ベティコ」でもない。ベティスのサッカーに面白みを感じる時もあれば、感じない時もある、ベティスのサッカーにも、本来思い入れのない一人のサッカーファンに過ぎないのだけれど、その「グリーン×白」の縦縞を目の前にすると、ファンになってしまいたい衝動に駆られるから不思議だ。

 何よりそのグリーンが良い。セルティックのグリーンにスミ(黒)とイエローをそれぞれ5%ほど盛ったような、しっとり鮮やかな色合いなのだけれど、これが僕の感覚に100%マッチしている。色はこの世の中に無数に存在する。グリーンと名の付く色も同様に無数にあるが、これほどお気に入りは、ベティス・グリーン以外に見当たらない。

 筆が走りすぎた嫌いなきにしもあらずだが、それもこれも僕が「ベティス」に感激してしまったからに他ならない。プレーもさることながらファンの声援、興奮のるつぼと化した「ルイス・デ・ロペラ」のスタンドに、である。チャンピオンズリーグ第4週、対チェルシー戦の話だ。

 チェルシーというこの世の「悪」に立ち向かう、民衆の怒りのような勢いを感じた。ど迫力の歓声だった。スタンドはゆらゆらと揺れた。震度3とか4とか、そのクラスの大きな揺れだった。久しぶりの経験だった。いつ以来だろうか。10年ほど前、ブラジルはベゾホリゾンチにあるアトレチコ・ミネイロのスタンドで、対フラメンゴ戦を見た時以来のような気がする。

 と言いつつ、あえて水を差せば、僕は「ルイス・デ・ロペラ」のスタンドが揺れるワケを知っている。

 このスタジアムは、実はまだ建設途中にある。半分が完成した段階に過ぎないのだ。大通り側から見れば、モダンなスタジアムに見えるが、裏から見ればオンボロ。建設資金が切れてしまったのだろうか。このアンバランスは、もう数年に渡り放置されている。

 それはともかく、片側のスタンドを改装している時に、訪れてみて驚いたのは、その鉄筋の量だった。日本の建築基準法に照らせば、間違いなく違法。少なすぎるのだ。手抜き工事も良い所。地震のない国だからこれでオッケーなのだろうけれど、ファンが応援の際にジャンプすれば、揺れて当たり前の、脆弱な構造なのだ。

 記者席があるのは古いスタンド側ながら、こちらの構造も推して知るべしだ。だから僕はその瞬間、マジで身構えた。スタンドが倒壊しても死だけは免れようと、中腰の態勢でまさかの瞬間に備えた。

 隣に座るチェルシー付きのイングランド人記者も青い顔をしていた。その2週間前に4−0で大勝したチームに、よもや今期初黒星を喫しようとは。

 それにしても、ここまで人気のないチームも珍しい。チェルシーの話だ。チェルシーファン以外のサッカーファンは、全員がアンチチェルシーだとは、欧州を旅していて感じる実感だ。そしてそのムードは、日を追う毎に高まりを見せている。

 ベティスは、つまりその代表としてチェルシーを成敗したことになる。勝利の瞬間、鬼の首を取ったかのように歓喜するベティス・グリーンを見たランパード以下の心境はいかがなものだっただろう。イベリア半島の南端まで自身の不人気ぶりが伝わっているかと思うと、僕なら泣き出しているに違いない。

 チェルシーの調子が、これを機に下り坂に転じれば、可愛げのあるチームとして不人気は、いくらか回復するだろうが、再び全勝街道を走るようなことになれば、悪役ぶりはさらに加速する。第3者には、もうしばらくチェルシーに頑張ってもらった方が、日本には存在しない文化が楽しめるというわけで、歓迎である。そして願わくば、次に敗れる現場にも立ち会うことができれば幸いだ。

 ともかく、今回のベティスには、思う存分楽しませてもらった。そのグリーンに対して拍手喝采を送ることにしたい。

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