オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
3大陸トーナメント VS.スイス
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2007/09/18 00:00
「そこでしか、ゴールは生まれないから」。
日本が後半4点の猛攻で0−2ビハインドをひっくり返し、4−3で勝利した9月11日のスイス戦のあと、MF松井大輔はそう言った。
「そこ」というのはペナルティエリアのこと。この試合、1トップでプレーするFW巻にサイドから絡む形で、4−2−3−1の2列目左でプレーした松井は、後半立ち上がりから積極的にサイドで仕掛け、2得点に絡む活躍を見せた。
1点目は2点を追う後半7分、MF中村俊輔のフィードに反応して左サイドを駆け上がり、ボールを受けてペナルティボックスへ切りこんだ。慌てて止めようとしたスイスDFベーラミに引っ掛けられて、PKのチャンスを得る。これを中村俊輔がきっちり決めて2−1にした。
2点目は後半23分、同じく左サイドで仕掛けようとしたところを再びマークについたラツィオDFに倒されてFKを得たもの。このFKを中村俊輔がファーサイドの巻に送り、ジェフFWの低いヘディングで2−2の同点にした。
その後、日本は後半33分にこの日2本目のPKを中村俊輔が決め、ロスタイムに交替出場のFW矢野が中村憲剛のリバウンドをゴールに押し込んで勝利を手にした。
松井は1点目をお膳立てした後の後半13分にも、連動したパスワークから、ゴール前でMF遠藤のパスを受けてシュートを打ち、前半31分にも、右サイドを深く切り込んで相手DFを1人かわしてGKと1対1になり、シュートを放った。だが、いずれもボールはバーの上を流れ、ゴールにはならなかった。
結局、松井は後半25分に交替でベンチに下がったが、前半の不振を払拭し、後半の日本の逆襲を象徴するようなプレーで、日本の攻撃に必要な要素を示すパフォーマンスを見せてくれたと言える。
この試合の前半は、オシム監督が「選手は相手をリスペクトしすぎたのかもしれない」というように、昨年のワールドカップベスト16進出という相手に名前負けしたのか、立ち上がりから腰が引けたようなプレーで、動きを欠き、日本は攻撃の組み立てができずに苦戦していた。
そういう日本の精神面は、DF闘莉王の立ち上がりのプレーに象徴されていたかもしれない。相手と競り合ってペナルティエリアで2度のハンドを犯し、そのうち1回が前半13分のエンクフォのPKによる得点を与えてしまっていた。
チームとして、シュートに行く前の最後のパスがよくないために、シュートには至らない。サイドの動きもなく、手詰まりになった中盤を避けるようにロングボールを前線へ送り込もうと試みるが、効果的な組み立てにはならないでいた。
この閉塞状況を打破したのは、縦をつく攻めの仕掛けだった。
縦へ仕掛ける重要性は、7月のアジアカップでも日本の攻撃の不足部分として指摘されていたが、パスの出し手であるパッサーが多い日本の中盤で、ドリブルでサイドを深くまで攻め入って、クロスやシュートで終わらせることができる選手は、残念ながら多くない。だが、攻撃には欠かせない要素である。それを松井という選手が体現し、なおかつ、得点に結びつけた。
「俊さん(中村俊輔)もヤットさん(遠藤)もパッサーなので、見てくれれば絶対にボールは出てくると思って、今日は抜けることだけを考えてやった」と松井は言った。足りなかったパーツがチームに加わり、歯車が噛み合った。
ただ、オシム監督は松井と中村俊輔を「ハーフタイムで替えようかと思っていた」という。そう言われるほど、彼らをはじめ、日本は前半よくなかった。ハーフタイムで指揮官の雷が落ちて、チームはようやく眼が覚めたようだ。
つまり、求められるプレー要素は持っていても、当然のことながら、パフォーマンスとして出なければ意味がない。となれば、いかに選手個人が必要なことを意識して、なおかつそれをプレーに出すか、それをチームがどう生かすか、ということに尽きる。
松井は言った。
「最後の最後は個人の問題だから、そこでどれだけ仕掛けるか、どれだけリスクを負えるか、それが勝負の鍵を握ると僕は思っている。(そういうプレーを)続けて行きたい」。
この認識はフランスリーグでプレーして松井に染み付いたものだろう。Jリーグでプレーしている日本の選手が、欧州でプレーせずに、シビアにこの認識を持てるか。日本チームの伸びは、その認識力次第で大きく変わるに違いない。