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“アウェイのナカ”に注目! 

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鈴木直文

鈴木直文Naofumi Suzuki

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posted2006/10/10 00:00

“アウェイのナカ”に注目!<Number Web> photograph by Naofumi Suzuki

 パークヘッドにヨーロッパ・フットボールが帰ってきた。満員のスタンドが醸し出す威圧感は、対戦相手にとって最大の難敵だ。6万人の大観衆を背にしたセルティックは、バルセロナやユベントスだって打ち負かしてきた。ところがどっこい、FCコペンハーゲンのサポーターも負けてない。試合開始の1時間以上前から試合終了まで、時にはセルティック・サポーターを上回る大音量で騒ぎ続けていた。残念ながら、彼らの攻撃的姿勢がピッチ上に反映されることは無かったけれど…。

 F組では最も戦力的に劣っていると目されるコペンハーゲンだが、予備戦であの名門アヤックスを破り、グループ・リーグ初戦もベンフィカ相手にドローに持ち込んでいる。油断は禁物だ。あちらからみれば、セルティックこそ最も与しやすい相手だという見方だってできる。勝ち点3とは言わないまでも、あわよくば勝ち点1を掠め取ってやろうという構えである。

 一方、セルティックは初戦でマンチェスター・ユナイテッドに敗れ、勝ち点0の最下位。とはいえ、アウェイで2-3と予想を上回る大善戦を演じてみせた。ハイライトは、言うまでもなく、同点に追いつく2点目の中村俊輔の直接FKだった。グループリーグ初戦16試合中最高のゴールに挙げられたゴールに、筆者が観戦場所に選んだアイリッシュ・パブ「Malone's」に集ったファンたちも揺れに揺れた。そのMalone'sでの、同点ゴールの興奮冷めやらぬハーフタイムの会話である。

 「彼のことは好きだよ。フリーキックはファンタスティックだったね!でも…。タックルを全然しないし、今日のような試合では、デッドボール(=セットプレー)以外ではあんまり役に立ってないよね。イングランドにとってのデビッド・ベッカムのようなものかな」

 「ナカはテクニックでは圧倒的に一番だ。でも、アウェイの試合では使えないね。やる気が感じられないよ。でも、セルティック・パークでのナカムラは最高だよ、最高!」

 実は、前々からファンの間で、中村のアウェイでの出来に対して不満の声がある。実際、Malone'sのファンたちも、FKの前までは、心許ない守備や、普段よりパスの判断が遅れがちの中村に対して悪態をついていたのだ。彼らからみると、マンU戦の中村も「アウェイのナカ」の域を出なかったということのようだ。

 翻ってコペンハーゲン戦での中村は、紛れもなく「ホームのナカ」だった。試合結果は周知の通り、滅多に攻撃に出ないコペンハーゲンに対し、セルティックが終始ボールを支配して危なげなく1-0で勝利した。中村の貢献度は際立っており、ストラカン監督もベストパフォーマーの一人に名前を挙げた。この日唯一の得点となったPKを得たプレーは言うに及ばず、自慢のスキルとパスワークはいつにもまして冴えていて、前半を通じてコペンハーゲンの左サイド(時には右サイドも)を何度も脅かした。試合前は「彼はデンマークじゃ別に有名じゃないね。」なんて余裕をかましていたデンマーク人記者も、ハーフタイムには蒼い顔で「ナカムラにやられっ放しだよ」とつぶやく始末だった。後半開始からしばらくは運動量がやや落ち、パスミスも見られたが、終盤になっても前線のスペースへ長駆飛び込んで見せるなど、彼のCLに懸ける「やる気」が、随所に感じられた。例えば、見慣れないヘディングでの競り合いや守備での貢献にもそれは現れていた。

 中村の守備について、この日コペンハーゲンの攻撃をことごとく寸断し、マン・オブ・ザ・マッチ級の活躍をみせたニール・レノンに訊いてみた。

 「ナカの守備は良くなってると思うよ。彼がいいのはインターセプトだね。彼はこれからも身体的な強さで勝負できるようにはならないだろうから、タックルなんかではどうしても不利だけど、戻ってきてボールをカットしてるのをよく見るだろ?彼はサッカーをよく知ってるから、守備でも攻撃でも、一緒にプレーし易いよ」

 「ホームのナカ」は守備面でも、スペシャリストの“レニー”からお褒めに預かったが、問題はこれがアウェイでもできるかどうか。次は10月17日にホームで、11月1日にアウェイで、ベンフィカとの2連戦が控えている。その間、SPLでもアウェイの試合が多い。今月は「アウェイのナカ」に要注目だ。

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