Column from EnglandBACK NUMBER
風雲急を告げるプレミア優勝争い。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byJohn Peters/Manchester United via Getty Images /AFLO
posted2009/03/25 13:09
「これからの1週間が最大の山場になる」
3月10日のレアル戦(CL決勝トーナメント、セカンドレグ)、そして14日に行われたマンUとの直接対決(プレミア第29節)を前に、ベニテス監督はこう息巻いていた。
結果はご存知の通り。レアル戦は4-0、マンU戦も4-1での圧勝である。ベニテス本人も、ここまで上首尾に運ぶとは思っていなかったに違いない。
ただし勝因は微妙に違っている。前者のレアル戦は、コンディションが整ったときの破壊力を見せ付けるような試合だった。4-2-3-1で「4」の中央にシュクルーテル、「2」にマスチェラーノとアロンソ、「3」の真ん中にジェラード、「1」にトーレスという「背骨」が揃ったリバプールは、12月頃のような「らしさ」を存分に披露した。
他方マンU戦は、ボール支配率からチャンスメークの精度、セカンドボールを拾う回数に至るまで圧倒的に相手が勝っていた。リバプールは、1月にストークやウィガンと凡戦を演じた頃のように、アロンソ抜きではゲームメイクに苦しむ欠陥を露呈している。
「我々の方がいいサッカーをしていたと思うだけに、この敗戦は受け容れがたい」とファーガソンが語ったように、マンUは自壊したも同然だった。とはいえイージーミスでトーレスに同点弾を許したばかりか、一発レッドで追加点と数的優位まで献上したビディッチばかりを責めるのは酷だろう。むしろ注目すべきは、主導権を握られながら、最終的に勝利をもぎ取ったリバプールの「運」や「勢い」だといえる。
その実リバプールは、直近の週末に行なわれたプレミアの30節ではアストン・ビラを一刀両断。今度のスコアは5-0(!)である。しかもマンUがフラムに1-2でよもやの敗北を喫し、チェルシーもトットナム戦を0-1で取りこぼしたため、首位のマンUと勝ち点差1の2位まで詰め寄ってきた。2月の中頃には「優勝はマンUで決まり。これほどつまらないシーズンはない」とまで言われてきたが、「潮目」は確実に変わりつつある。
たしかにマンUには、消化試合数が1試合少ないというアドバンテージがある。またリバプールに大敗を喫したことと、フラムに敗れたことの間に直接の因果関係はないのかもしれない。だが直接対決でリバプールに惨敗したことで、リズムが狂ったことは明らかだ。現にマンUは、今回リバプールに敗れるまでプレミアでは2敗しかしていなかった(2敗は共にアウェーのリバプール戦とアーセナル戦。ホームは無敗)。
その意味でも、このタイミングでマンUを撃破した功績は大きい。リバプールはプレミア創設以前、なんと89-90シーズンとなるリーグ制覇への望みを再び手にしただけでなく、チェルシーやアーセナルにも終盤戦を盛り上げるチャンスを与えたからだ。
3位のチェルシーは、ヒディンクのもとで見事に復活。「パスを回し、積極的にゴールを狙うラテン系のチェルシー」が見られなくなったのは残念な気もするが「餅は餅屋」なのだろう。守備を固めてカウンターを狙う本来のスタイルに立ち返ったことで安定感が出た。さらに好都合なことには、長く戦列を離れていたエシアンやカルバーリョも復帰している。特にエシアンは、CLのユベントス戦(セカンドレグ)と続くマン・シティ戦で貴重なゴールを挙げ、抜群の勝負強さを示した。
片やアーセナルは、息切れしたアストン・ビラを抜き4位に返り咲いてきた。復調してきた要因は、これまた戦力の充実である。昨年2月に足を複雑骨折したダ・シルバがようやく復帰し、ゼニトからアルシャビンも加わった。もちろん守備の不安は解消されたわけではないし、アルシャビンに関しては、クラブ史上最高額の契約金を払って27歳の選手を獲得したことが未だに波紋を呼んでいる。しかしこれでセスクやロシツキーなども戻ってくれば、攻撃陣の駒はかなり揃う。既にチームの調子はCLのローマ戦を乗り切ったあたりから上向いてきた。ベンゲル曰く「我々は(課題とされてきた)メンタルの強さも備えている」。
アーセナルは組合せの点でも、プレミア終盤戦の隠れたキーマンになる可能性が高い。リバプール戦(4月21日)、チェルシー戦(5月9日)、そしてマンU戦(同16日)と、"現時点での4強"の中で、直接対決をすべて残しているのはアーセナルだけだからだ。
攻撃陣の層の厚さ(守備陣ではない)や経験値の大きさなどを考えれば、それでもマンUの有利は否めないのかもしれない。しかし、だからこそライバルたちには、意地をみせてタイトルレースを引っ掻き回してほしい。マンU対リバプール戦、フラム対マンU戦のように、サッカーの面白さは何が起きるかわからない点にこそある。予定調和のシナリオなど、B級のテレビドラマでいくらでも見られるのだから。