Column from GermanyBACK NUMBER
奈落の底が待っている。
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byGetty Images/AFLO
posted2009/03/27 23:59
シャルケが監督とGMの両人事で大揺れだ。リーグ8位に低迷し、チャンピオンズリーグはおろか、UEFAカップ(来季より『ヨーロッパリーグ』へ改称される)出場権も絶望的。このままでいけば大幅な収入減が避けられず、チーム運営に支障をきたすことが懸念される。
前半戦7位は21世紀最悪の途中結果だったが、後半戦に入っても一向に調子が上向かない。ついに臨界点に達したのは3月3日のDFBカップ戦だった。2部リーグのマインツに0-1で負けたことで責任論が浮上。当初、テンニース理事長は間髪を置かずルッテン監督をクビにしようとしたが、電話で相談を受けたミュラーGMが必死に監督を庇ったことでひとまず事態は収まった。しかしチーム内では以前から「ワガママな監督」を嫌う選手が続出しており、統率が乱れた状況が改善される余地は残されていなかった。
このクラブでもっとも現場を知るのはミュラーである。会長も理事長もその点は認めていて、重要な決断の多くをミュラーに任せていた。就任したシーズンがリーグ2位、翌年は3位といずれもCL出場(予選を含む)を果たし、その意味では小さな成功を味わったのだが、今季の補強でミュラーは決定的なミスを連発してしまった。オランダからDFフンテラールを550万ユーロ(約7億円)、FWファルファンを100万ユーロ(約13億円)で獲得したというのに、これが揃いも揃って完全な期待はずれ。怒ったファンが練習場で「国に帰れ! お前の実力は市町村リーグ並みだ」の横断幕を掲げて抗議する騒ぎにまで発展した。
シャルケはゼニート・サンクト・ペテルブルクとパートナー契約を結んでいるが、GMの目利きが良かったらアルシャビンをとっくに手に入れていたはずと言われる。ところがユーロであれだけ注目を集めた選手だというのに、GMは何の手だても打たず、ひたすらオランダ人脈に頼るだけだったのだ。ラフィーニャの後釜を探すべきなのにクラシカルな6番では、攻撃の糸口が見つからないのは分かり切っていたことではないか。
DFBカップ敗戦から3日後のケルン戦、ルッテンは突如それまでの戦術を変え、トップ下にラキティッチを配置した。そして不動のレギュラーでチーム内での発言力が絶大なDFボルドンをベンチに座らせた。結果はラキティッチのアシストにより1-0で勝ったのだが、最後の19分間しかプレーできなかったボルドンの不満が爆発する。この男を黙らせ従わせるのは容易なことではない。
続く24節のヴォルフスブルク戦。調子の良かった代表MFのベスターマンに代えて、後半から19歳の新人MFを投入した。劣勢を若手の豊富な運動量で補おうという作戦だったのだろうが、雰囲気に飲まれた新人はまったく使い物にならなかった。MVPに選ばれてもおかしくないほどの活躍を見せたMFジョーンズはベンチに向かって何度も「この子を交代させてくれ」「FWもファルファンじゃ点が取れない」と訴えたが、ルッテン監督は自らの決断に固執し続けた。そしてチームは自壊した。
翌日、昼の練習が始まる前、ミュラーは選手にクラブから解雇されたことを知らせた。ミュラーの目からは涙がこぼれていたという。クラブとしては監督よりもGMに大きな責任があると判断してのものだった。
早速、次のGM探しが始まった。候補者として名前が挙がったのは4人。96~02年までシャルケの監督を務め現在は浪人中のステフェンス、シュツットガルトで立場が危うくなっているヘルト、88~92年までシャルケのGMを務めた経験があるブルッフハーゲン(フランクフルト)、そして元バイエルンのオリバー・カーン。このうちブルッフハーゲンは早々に噂を否定、ステフェンスは「あり得るだろう」と色気満々だ。注目はやはりカーンである。頭の切れるカーンだけに、マスコミの質問にはサラリと答えるだけで、「やる」とも「やらない」とも言わない。言質さえ与えない賢明ぶりには脱帽である。
新しいGMは今月末までに発表される。カーンがその職につくかどうかだが、長年“ドイツ1真っ当な大人のクラブ”でやってきただけに、子供じみたゴタゴタ劇ばかり繰り返すシャルケの体質に適応できるとは思えないと考えるのが常識の線であろう。
さてルッテンだが、こちらも月末にお払い箱の運命である。25節、ホームでのハンブルガーSV戦に負けたことで、彼の生き残りの最後のチャンスが潰えた。この日のフォーメーションは4-2-3-1。これで過去3試合すべて異なるフォーメーションを使ったことになる。いずれの試合でもお気に入りのファルファンだけは外さなかった。ここに彼のファルファンへの溺愛ぶりが表れている。これでは他の選手が「なぜ、アイツだけが……」となるのも当然だ。一貫しない戦術と特定の選手へのエコひいき。本来は気のいい性格のルッテンだが、初めてのビッグクラブで我を忘れ、結局何も仕事が出来なかったということか。
クラブ首脳陣は次期監督選びでアドフォカート、ファン・ハール、ヒディンクらオランダの著名人をリストアップしたとされる。来季の収入減を計算したら、彼らには要求されるだけの高給を払えないというのに…。
97年にUEFAカップで優勝して名将の誉を得たステフェンスは在任中、1試合平均1.48の勝ち点をあげた。反対に、首脳陣と衝突して不名誉な形でクラブを去ったラングニックは2.00、スロムカは1.85の高い勝率を残した。そのラングニックは戦術の魔術師として話題のホッフェンハイムを短期間で頂点へと導いた。この現実をシャルケの幹部はどう思うのであろうか。
シャルケの困った体質とは、我慢の足りなさと計画性の欠如、理性より感情が先立つことである。バイエルンに次ぐ人気チームだけに、決して『ドイツのインテル』みたいになってほしくない。