佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
流れは変わらなかった
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/10/11 00:00
「琢磨クンは、あの1コーナーがすべてでしたね」
レース後、ホンダの中本修平エンジニアリング・ディレクターの第一声はそれだった。
鈴鹿ではスタートダッシュに絶好の奇数番手の予選5位。多くのファンが抱いた日本グランプリ初表彰台への大きな期待も無理はなかった。
しかし、スタートから十数秒も経たないうちに、15万6000人観客の期待感は弾け飛び、いつしかため息に変わる。
「スタートの出だし自体はそんなに良くもなく悪くもなくという感じだったのですけど、あれはクルサードかな、フライングに近いスタートでボクの目の前に入って来て、その後もう1台のレッドブルのクリエンとサイド・バイ・サイドのまま1コーナーに入って行ったのですが、ボクがアウトにいてクリエンと接触したかどうかよくわからない。ともかくクリエンとすごく近かったんですけど、クルマがまっすぐ進むばかりで、全然コーナーの方に向いて行かない。それで1コーナーのずいぶん外側を回る形になって、片輪が縁石を超えた。その時にルーベンス(バリチェロ)が目の前に来て、避けるようにしたのですけどフロント・ホイールがぶつかって、ボクのクルマは完全にグラベルの方に向かって行った……」
バリチェロとともにほとんど最後尾近くまで落ちた琢磨はそれでも数台を抜いて来たが、モントーヤの事故処理のためセーフティカーが出動したのを期にピットイン。バリチェロとの接触で壊れたノーズを取替え、フルタンクに近いところまで給油する。
実質的な1回ピットストップ作戦への変更だが、ガソリンで重いマシンをコントロールするのは容易ではない。
「鈴鹿は重量が(ラップタイムに)利くコースだから琢磨クンはつらかったでしょうね」と中本エンジニアは言うが、果たしてペースは伸びない。
「ハンドリングは満足行く形じゃなかった。クルマにグリップ感がなくて、ガソリンが少なくなってクルマが軽くなってからもあまりペースが上がらなくて、つらかったですね」と言う琢磨にその後、シケインでトゥルーリと接触する2回目のアクシデントが襲う。
「トゥルーリが前、ボクが後ろから狙う形で、130Rコーナー出口はボクの方がよく、スリップストリームを使ってましたから非常に近い状態でブレーキングに入った。トゥルーリもブロックラインで相当内側に来たのですけど、その時にはボクもかなり内側でブレーキングも開始していて、そのままスペースがなくなって接触という形になりました」
この接触でトゥルーリはリタイア。琢磨はボディパーツの一部が破損したが、ハンドリングには大きな影響はなかったという。ただしレース後、審査委員会は琢磨に対して失格の判定を下す。これで1週間後の中国グランプリ予選発進は最も不利な最初のアタッカーとなった。
金曜〜土曜日のプラクティスはいつになく順調で、予選も今季自己最高の5位。琢磨は「もう1回くらい幸運が来てもいいと思っていたが、続かなかった」と言う。
レースはマクラーレンVSルノーの、今季を象徴するすばらしいものとなったが、琢磨のレースもまた今季の運のなさを端的に表わす「つらく、きびしく、残念」なものとなった。
シーズンの大きな流れを母国グランプリだからといって変えることはできない。そう痛感させられた佐藤琢磨の日本グランプリだった。