Column from EuropeBACK NUMBER
「R」の戦いが始まる。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2004/04/02 00:00
中国のスポーツ新聞が「新3R」という見出しで、ヨーロッパで注目されている3人のブラジル人選手を特集していた。これまでも使い古されてきたこのフレーズは、それぞれの選手の頭文字からきているが、ひとりはモンスターといわれるロナウドだ。ひと昔前までは、リバウドやロマーリオの「R」が踊ったが、今はまたひとつ時代が進んだ。ACミランのリカルド・カカとFCバルセロナのロナウジーニョが「3R」に加わった。
ウルグアイとのワールドカップ南米予選ではこの「新3R」が攻撃の中心となる。デポルティーボをサン・シーロに迎えたチャンピオンズ・リーグ準々決勝第1戦、先制したデポルをあっさり撃沈させたのは、ミランのリカルド・カカだった。また、国王杯決勝でサラゴサに延長戦の末敗退し、さらには敵地でビルバオに4対2の敗戦を喫したレアル・マドリーに復調のきっかけを与えたのは、故障組から戻ってきたロナウドだった。地元のマスコミはこぞってふたりの「R」を持ちあげた。
ところで、チャンピオンズ・リーグに出ていないだけでなく、UEFAカップからも姿を消したFCバルセロナのロナウジーニョはというと、彼のニュースもカカとロナウドに劣らないほどに全世界で配信されている。
今季のFCバルセロナの船出は難航していた。勝ちと負けを行き来しているばかりか、ベッカムという大物を逃したことでファンの怒りはラポルタ新会長に向けられた。「バルサはYES。ラポルタはNO」そんな罵声ともいえる歌声が過激サポーターのボイソスノイスから毎試合発せられても、誰も反論しなかった。身から出た錆に思えた。ライカールト新監督のクビも示唆され、カンプ・ノウはいつも苛立ちに包まれていた。
そんなバルサが生き返ったのは、いつからだろうか。冬の移籍マーケットでダービッツを獲得したことで、失点が減少。いくぶん安定感は増した。しかし、ゴールが奪えないジリ貧状態はそう簡単には解消できないでいた。しかもカウンター攻撃でゴールを奪うバルサにどこか共感できなかった。デポルティーボやバレンシアを倒しても、まだ隣の芝生が青く、美しく、感じた。だが、負け癖が付きはじめていたバルサを変えたのは、リーグ9連勝の立役者、ロナウジーニョである。ロナウドやカカが抜けたミランやレアルには日替わりのスターが存在するが、ロナウジーニョのいないバルサはかなり貧弱だろう。
ロナウジーニョはFCバルセロナにたどり着くまでに少なくとも2度は振られている。最初の失恋は2年前。レアルがロナウジーニョ獲得に動いたが、移籍金が合意に達しなかったことで、結局彼はもう1年間パリに留まった。2度目は今季開幕前だ。マンチェスターにまで飛んだが、サインをする寸前で交渉が決裂した。このときも、金額的に折り合いがつかなかったのだ。今ほど、人気があったわけではない。そして、マンチェスターと別れた翌日、バルサがロナウジーニョとの契約にこぎつけたのだった。
今月、レアルにはアトレティコ、バルサ、デポルティーボが襲いかかる。ロナウジーニョはロナウドを倒すことで、リーグのタイトルに狙いをつける。
ロナウジーニョはいう。
「ボクたちはタイトルを獲得するためにベルナベウに向かう。けれども、明確な目標は来季のチャンピオンズ・リーグ出場の権利を得るリーグのベスト4に残ることだ」
ロナウドはいう。
「レアルはリーグのリーダーだけれども、バレンシアやバルセロナを含めてまだ何が起こるかわからない。でも、ボクらはとてもいいメンタルを維持しているし、リーガにチャンピオンズ・リーグのタイトルをいただくよ。バルセロナがボクたちから勝利を奪うのはとても難しいはずだ」
バルサにきてから、いまだロナウジーニョを心の底から本気にさせたクラブはないのかもしれない。チャンピオンズ・リーグは未経験で、昨年のカンプ・ノウでのクラシコにもロナウジーニョはケガをして出られなかった。それだけに、ベルナベウでのロナウドとの戦いには、特別な思いを抱いているだろう。
「R」の戦いは、もうすぐだ。