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かっこ悪い? 尻に敷かれる“銀河の戦士”。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byKoichi Kamoshida/Getty Images/AFLO

posted2004/04/01 00:00

かっこ悪い? 尻に敷かれる“銀河の戦士”。<Number Web> photograph by Koichi Kamoshida/Getty Images/AFLO

 ベッカム家は“かかあ天下”で有名だ。“銀河の戦士”と勇猛な名で呼ばれ、イギリス代表の主将の看板を張る男が、ビクトリアの尻に敷かれているらしい。レアル・マドリーでは、“世界一の司令塔”ジダンの司令塔は、奥様のベロニカだというし、グティ家も年上女房(7歳上)のアランチャが仕切っているようだ。

 ベッカムとビクトリアが知り合った1997年対シェフィールド・ウエンズデイ戦の試合後。もじもじするベッカムに近づいて話しかけたのも、電話番号をねだったのもビクトリアだそうだから、すでに力関係は決まっていたと言える。

 あらためて互いを形容するキーワードを集めてみると、夫婦関係のあり方がよくわかる。

 ベッカム:甘い、ロマンチスト、GIVE、恥かしがりや、寡黙、控え目、無心な笑顔、整理整頓、サッカー選手。

 ビクトリア:アグレッシブ、実利的、TAKE、社交的、おしゃべり、豪胆、カメラ目線、野放図、ビジネスウーマン。

 本当にベッカムは“女っぽく”、ビクトリアは“男っぽい”のだ。

 ベッカム家は共働きだが、サッカー好きが昂じてプロになった夫と、富と名声を求めて歌手そして夫の専属マネージャーになった妻とは、ビジネスに対する覚悟と野心が違う。

 ファッション面でも、清楚な白い服にペディキュア、ピアスというベッカムのフェミニンさと、黒服、革ジャン、パンツルックのビクトリアの男っぽさのコントラストが際立つ。ベッカムには、時々ビクトリアの下着を身につける趣味がある(と、ビクトリアが暴露した)らしいが、こうしてみると、別段、不思議なことにも思えない。夫婦でSMを楽しんでいる、という報道もあったが、もし事実なら、いじめ役が誰でいじめられ役が誰かは明らかと言える(ですよね?)。

 こんなビクトリアを、アレックス・ファーガソンが毛嫌いしたのも無理はない。

 イギリスの伝統的な父親像を象徴し、監督と選手の間に親子の忠誠を強いるという彼。試合後はパブで一杯やる牧歌的な男と男の付き合いの中で生きて来た彼には、ビクトリアとベッカムの関係を理解できなかったろう。

 ファーガソンはビクトリアを取り巻くショービジネスの匂いを嫌悪したが、そこには、“息子をかどわかす悪妻”、“尻に敷かれる情けない息子”という感情的な反発もあったのではないか。もしビクトリアが、夫を立てるという保守的な社会モデルの“良妻”であれば、いくらショービジネスの世界に浸っていようが、父ファーガソンと息子夫婦はあそこまで対立せず、ベッカムを“勘当”しないで済んだのではないか――。

 もちろん、以上は私の勝手な憶測だ。が、口も利かないというファーガソンとベッカムの関係は、プロスポーツの師弟というよりも、“父の反対を押し切って結婚した息子”という構図に近いように思う。

 そんな、かかあ天下のベッカム家で、ちょっとした反乱があった。

 4月17日に30歳の誕生日を迎えるビクトリアの誕生パーティーの内容に、ベッカムが難癖をつけた、というのだ。報道によると、ニューヨークでの大パーティーを希望した妻に対し、夫は、シーズンの大詰めだから「もっと内輪で小さな祝いにすべき」と一喝。結局、ビクトリアが折れたという。

 ファーガソンが聞いたら喜びそうだ。“実は亭主関白”という噂も飛んだ。

 が、かかあ天下でいいではないか。

 私は、以前にも書いたが(『慈善活動と、“同性愛者のアイドル”の関係』2004年1月6日)、ホモ雑誌に登場したり、ペディキュアを塗ったりして社会の偏見を笑うベッカムが好きだ。夫婦で伝統的な男と女の役割が逆転しているのなら、なお素晴らしい。ビクトリアの尻になら敷かれてもいい、私だってそう思う。

デイビッド・ベッカム

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