今週のベッカムBACK NUMBER
ベスト・ドレッサー賞――“偉人”に加わった小さな勲章。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byGetty Images/AFLO
posted2004/04/08 00:00
ベッカムが3年連続で、『GQ』誌の“英国人ベストドレッサー賞”を受賞した。俳優のジュード・ロウや歌手のデビッド・ボウイをおさえての堂々の栄冠である。
その3週間前には『Vanity Fair』誌の“世界のベストドレッサー10人”にも選ばれていたから、その実力には疑問の余地があるまい。
ベッカムはサッカー界はもとより、有名人の中でも最もファッションセンスがいい男なのだ。
「どこが?」と、私に聞かれても困るが、(たぶん)あのポニーテールとか、はだけた胸のネックレスとか、でかいサングラスとか、白いジャケットとか、裸足サンダル履きとか、よれよれのジーンズが“IN”なのだ。ファッション界の偉い人たちが認めたんだから、間違いない。
もっとも、3連覇の前年、2001年には、実はベッカムは同じ『GQ』誌ワーストドレッサー部門で3位だった、という情報もあった。情報源は確認できなかったが、もし本当なら、1年でワーストスリーからベストワンへ――。この急成長の裏にどんな涙ぐましい努力、感動のドラマがあったのか? まさか10月のギリシア戦でフリーキックを決め、国民的ヒーローになっただけ、なんてことはあるまい。夏に見せた、あの衝撃のモヒカンカットが効いたのかもしれない。
とはいえ、ベストドレッサーなんてのは、ベッカムにとっては小粒の賞だ。
なにしろ、ベッカムは今年の1月、イギリスの若者が“最も憧れる歴史上の偉人”に、トニー・ブレア首相(69位)、イエス・キリスト(123位)を押しのけ、堂々選出されているのだ。ちなみにこのときベッカムと栄冠を争ったのは、ブラッド・ピット、ブリットニー・スピアーズ、キアヌ・リーブスら。どこが“歴史上の偉人”なのか? とツッコミたくなるが、栄誉であることは間違いない。また、2002年には、“英国の生んだ偉人100人”にベッカムが、シェークスピア、チャーチル、ダイアナ妃、ニュートン、チャップリンらと並んで選ばれている。シェークスピアとベッカムを比較していいのか? という疑問はこの際、置く。この手のアンケートの信憑性や意義は、私には正直言って疑問だが、結果は面白い。
キリストに勝ち、シェークスピアやニュートンに肩を並べたベッカムにとって、ベストドレッサー賞のスケールはやはり小さい。しかし、だからといって、「高い服を着れば誰でもなれるさ」などと、侮れるものでもない。
私が(おそらくあなたも)、いくら億万長者でもベストドレッサー賞は獲れないに違いない。“ベストドレス賞”ではないのだ。服がいかに美的感覚にあふれたデザイナーの作品であろうが、モデルが美しくなければダメ。私がサンダルを履いたら、それはファッショナブルでも何でもなく、コンビニへのお出かけファッションに過ぎなくなってしまう。不公平だが、美とはもともとそういうものだ。
むろん、ベストドレス+ベストモデルがそろっても、ベストドレッサーになれるとは限らない。レアル・マドリーが11人の個人技のトータルでは世界最高レベルにありながら、即、“世界最強”と呼べないのと同じ。コンビネーションとバランスが欠けては、チームは機能せず、ファッションは“悪趣味”になるだけだ。
さて、このベッカム3連覇の偉業は、私もうれしい。何しろ、サッカー界といえば、ファッションなどとは無縁の世界であることが身にしみているからだ。
私はスペインで少年チームの監督をしているが、クラブから支給されるジャージやウインドブレーカーのセンスときたら! たとえば、去年のジャージの背中には、大きく『Entrenador(監督)』と刺繍してあった。何が『監督』だ! 見りゃわかるだろう! サッカーウェアには、赤や青、緑の原色を使いたがり、派手であればあるほどいい、とする感覚は未だに根強くある。これはプロの世界でも変わらない。レアル・マドリーやバルセロナのユニフォームが本当に美しいだろうか? ベッカムやロナウディーニョが着ているからカッコよく見えるだけではないのか?
もっとも、スペインはサッカー界に限らず、あまりファッショナブルな国ではないのかもしれない。ベストドレッサー3連覇の夫を持ち、自らもベストドレッサーの常連、ビクトリアのスペインファッションへの目は厳しい。
以前この連載で取り上げた、『緊急特番! 密着6か月 ベッカム夫妻の真実!』という番組でも、ビクトリアの不平タラタラのシーンが出てくる。自らが選ばれたベストドレッサー賞の授賞式の会場で、「スペイン製の服はひどい!」とか、「スペインの服がひどいから私がファッションリーダーになれるわけね」とか言いたい放題だ。
昨年の10月、11月、ビクトリアがロンドンやニューヨークにばかりいて、マドリッドに寄りつかなかったことがあった。ゴシップメディアでは“離婚報道”が盛んにされたが、不在の理由の1つは、ビクトリアのお眼鏡にかなう服がマドリッドにない、ということのようだ。料理もお気に召さなかったようで、「マドリッドに着いたとたん、ニンニクの匂いがする」と顔をしかめていたらしいから、スペインはよっぽど相性が合わなかったようだ。
このビクトリアが、ベッカムファッションの影のコーディネーターだと噂される。ファッションに限らず、かかあ天下のビクトリアには、お人好しのベッカムをコントロールしている、というイメージが尽きない。まぁ、夫の着こなしを妻がチェックするなんてことは、どこの家庭でもやっていることで、別に大したことではない。
スペインではベッカム夫妻のゴシップ雑誌への露出が急減している。今回のベストドレッサー賞のニュースもまったく話題になっていない。先週もお伝えしたとおり、ビクトリアの大誕生パーティーも自粛。チャンピオンズリーグもリーグ戦も大詰めだから仕方ないのだが。ここいらで一発、あのモヒカンでもやってくれないだろうか。