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大リーグへの選手流出に際しての危機感のない言葉。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byThomas Anderson/AFLO

posted2003/12/15 00:00

大リーグへの選手流出に際しての危機感のない言葉。<Number Web> photograph by Thomas Anderson/AFLO

 日本から大リーグへの野球選手の流出がつづいている。今年は松井稼頭央がニューヨーク・メッツに入団した。

 ぼくは彼らが大リーグを目ざすのを非難するつもりはすこしもない。レーシングドライバーがF1ドライバーになりたいと願うのと同じことで、スポーツ選手なら、その力を最高の舞台で発揮したいと願うのはあたりまえのことだからである。そう思わない選手がいたとしたら、そのほうがおかしい。そして、野球の最高の舞台が大リーグであることは、いまも昔も変わらない。選手の流出は今後もつづくだろう。

 しかし、立場が異なれば、見方もちがってこなければならない。

 たとえば、コミッショナーやリーグの会長である。彼らの仕事は国内野球を維持発展させることなのだから、有望選手の大リーグへの流出は、すくなくとも座して見ている問題ではあるまい。

 野球の人気は年々低下している。かつては20パーセントも30パーセントもあったジャイアンツ戦のテレビ視聴率が、今年は過去最低だった一昨年の15.1パーセントを大きく下回り、14.3パーセントまで落ちたそうだ。このまま低下しつづければ、ジャイアンツの試合さえ中継されないという時代がくるかもしれないのである。そして、有望選手の大リーグへの流出がそのときを早めないと誰がいえるだろう。

 しかし、いつものことだが、こんどの松井稼頭央のメッツ入団に際してのコミッショナーとパ・リーグ会長のコメントは、おどろくべきのんきさだった。

「プレッシャーも相当なものと想像するが、『自分の夢』にかけたのだから、それらを克服して頑張ってほしい」(コミッショナー)

「少年野球ファンにも夢を与える出来事。各球団とも素質のある若い選手を一流選手に育てていく努力が大事だろう」(パ・リーグ会長)

 どうしたら国内野球の危機に際して、このような危機感のかけらもない言葉がさらりと出てくるのだろう。

 彼らは、11月に松井稼頭央が大リーグへの移籍を表明した際、記者会見でその理由を語ったのをきかなかったのだろうか。

「大リーグでは、松井さんが跳びはねて喜んだり、イチローさんがガッツポーズをしたりしている。松井さんもイチローさんも、日本ではそんなことをしなかった。自然とそういうものが出るのはどういう野球なのかと思って大リーグ挑戦を決めた」といったのである。

 つまり、日本の野球には本心から喜べる感動がないといったのである。いまの野球のつまらなさの根本的な原因を、これほど的確にいいあてた言葉をぼくはほかに知らない。イチローもこれと似たようなことをいって大リーグに行ったと記憶しているが、プレーする選手が感動しない野球に、見る者がどうして感動するだろう。

 日本の野球はどうしてそういう野球になってしまったのか。球界関係者が考えなければならないことは山ほどあるのである。

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