プロ野球偏愛月報BACK NUMBER
五輪を乗っ取ったプロの中途半端さに怒り心頭。
text by
小関順二Junji Koseki
posted2004/01/28 00:00
今、プロ野球界はアテネ五輪代表メンバーを選ぶ際の「1球団2選手」の枠をめぐって紛糾している。昨年11月のオーナー会議では「1球団2選手」で決定しているが、その後、長嶋茂雄・五輪監督が「2人枠」の撤廃を要望してから、「それはいい」「それはダメ」と、議論百出の様相を呈した。今年1月21日に行なわれた日本代表編成委員会では、長嶋氏が「基本的には2名の枠という決定事項に従う」と表明、決着を見そうだが、「代表24人、1球団2選手以内」で選べば、ドリームチームの編成は100パーセント無理。
また、新たな意見として、「投手1人、野手1人」の均等選出を望む声が沸き上がり、ドリームチームの夢はますます遠ざかりつつある。ちなみに、「1球団=2選手&投手1人、野手1人」で構成したらどういうチームになるのか、シミュレーションしてみた。
◇阪 神 ◇中 日 ◇巨 人 ◇ヤクルト ◇広 島 ◇横 浜 |
<投手> 井川 慶 岩瀬 仁紀 上原 浩治 石井 弘寿 黒田 博樹 佐々木主浩 |
<野手> 今岡 誠 福留 孝介 高橋 由伸 宮本 慎也 木村 拓也 相川 亮二 |
◇ダイエー ◇西 武 ◇近 鉄 ◇ロ ッ テ ◇日本ハム ◇オリックス |
<投手> <和田 毅 松坂 大輔 岩隈 久志 小林 雅英 金村 暁 山口 和男 |
<野手> 城島 健司 和田 一浩 中村 紀洋 小坂 誠 小笠原道大 谷 佳知 |
<レギュラー> (捕)城島 健司④ (一)小笠原道大⑥ (二)今岡 誠② (三)中村 紀洋⑤ (遊)宮本 慎也⑨ (左)谷 佳知⑦ (中)高橋 由伸③ (右)福留 孝介① (指)和田 一浩⑧ (○内数字は打順) |
<控え野手> 相川 亮二 木村 拓也 小坂 誠 |
<先 発> 上原 浩治 松坂 大輔 井川 慶 和田 毅 黒田 博樹 岩隈 久志 金村 暁 |
<中継ぎ> 岩瀬 仁紀 石井 弘寿 山口 和男 |
<抑 え> 佐々木主浩 小林 雅英 |
捕手・城島の控え・相川は苦しい選択である。阿部慎之助(巨人)=高橋由、谷繁元信(中日)=福留、矢野輝弘(阪神)=今岡、古田(ヤクルト)=宮本という具合に、有力捕手は同チーム内に外せないメンバーがいるため、選出することができなかった。野手不足の横浜、ロッテ、広島のいずれかから選ぶしかないことになり、相川を選んだのだが、相川の実力が石原慶幸(広島)や里崎智也(ロッテ)より上だとは思っていない。木村、小坂を選んだほうが全日本にとっては有益、と思っただけの話である。
宮本の控え・小坂も苦しい選択。二岡智宏(巨人)、井端弘和(中日)は捕手と同じ状況で選出するのが難しい。三塁手もヒザに不安のある中村より、岩村明憲(ヤクルト)、川崎宗則(ダイエー)のほうが適任だと思うが、宮本、城島がいるから無理。長嶋監督はこういうシミュレーションをした上で、「1球団2選手」の枠を取り払いたかったのだろうが、落合博満・中日新監督などの反対が予想以上に強く、理想は頓挫した格好。
こういう経緯を見ているうちに腹立たしくなった。プロはアマチュアの選手(主に社会人選手)からオリンピックを取り上げた経緯を忘れたのだろうか。アマの成績が悪かったわけではない。
’84年ロス五輪=金メダル、’88年ソウル五輪=銀メダル、’92年バルセロナ五輪=銅メダル、’96年アトランタ五輪=銀メダル
そして、前回のシドニー五輪(’00年)ではプロが8人入り、実質的に社会人選手から五輪を奪い取った格好にも関わらず、初のメダルなしの4位に終わっている。僕が社会人の選手なら責任者のところに怒鳴り込んでいる。「どうせ乗っ取るなら、最強メンバーを作って金メダルを取れ!」そう叫んでいるはずである。
自分たちの犯した罪を一瞬も振り返らず、目先の小さな利益だけに汲々とする。そういう態度を恥とも思わず、さらに小さな利益を得ようと「投手1 人、野手1人」というセコイ要求を繰り出す。五輪はプロだけの問題ではない。それを目的に技術を磨き、モチベーションを高めてきた社会人の歴史も内包されているのである。それを顧みず、ひたすら自分だけの欲を高め、保身を図る。
「1球団2選手」の枠はもう撤回できないだろう。優勝するかどうかは時の運次第だが、中途半端なメンバーを選出し、五輪を軽んじた態度は球史に刻み込まれてしまった。