スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「巨大感動装置」に彩られた、
箱根駅伝の“経済戦争”を読み解く。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKenta Yokoyama/PHOTO KISHIMOTO
posted2009/12/31 08:00
毎年課題としている5区さえ乗りきれば、早大の優勝も!
そして早稲田。
早稲田は伝統的に山の攻略に苦しんできた大学だ。5区、6区がうまくいけば上位に入れる。
渡辺監督は「5区では柏原君に4分やられるのは覚悟しています」と話しているが、今年も5区をいかに乗り切るかがポイントになるだろう。復路にエース級の選手を温存できれば、優勝をうかがえる戦力ではある。
駒沢大は1年生が多い。
箱根では1年生に多くのことを期待してしまうと落とし穴にはまる恐れがある。1年生がどれだけの走りを見せるかで、順位が決まってくるのではないか。
優勝すれば入試志願者が激増。箱根がもたらす経済効果。
今大会は、順天堂大学、神奈川大学といった常連校が出場できず、競争がますます激化している。
これは大学の経営側が箱根を宣伝媒体として重視しているからに他ならない。
前回、優勝した東洋大学は2009年に行われた入試で志願者を前年比1万人以上も伸ばした。すべてが箱根効果とは言わないが、無縁でもないだろう。事実として、箱根で優勝争いをしたら、億単位で受験料収入が増えるという話もある。
そうなると学校側が陸上部に投資をする構造が生まれてくる。
大学によっては陸上部に強化費として数千万円を投下する。それでも結果が出れば安いものなのだ。
大学側の期待を過剰に背負っているぶん、監督たちは必死で強化を進めていくことになる。近年、結果が出ない学校の監督交代劇が目立つ。これは結果責任を問われたからに他ならない。
奨学金に栄養費……「売り手市場」で加熱する選手勧誘合戦。
監督たちは1月2日、3日の箱根で戦っているだけでなく、実際には有望な高校生をめぐって獲得合戦を繰り広げているのだ。
高校時代、5千メートルを14分台で走れば、間違いなく関東の大学から勧誘される。選手側の「売り手市場」なのである。大学側としては授業料、寮費、あるいは栄養費など様々な経済的な優遇案を選手たちに提示し、勧誘合戦を行っているのが実情だ。
ここで大学側の「本気度」が試される。
全額免除なのか?
それとも一部免除か、奨学金の形で給付するのか?
一般的な傾向として、知名度の高い学校は経済的なメリットをあまり提示しない。一方、平成に入ってから強化に取り組むようになった新興勢力の学校は、経済的な優遇を前面に出して選手を勧誘しているようだ。