佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 7 ヨーロッパGP
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta
posted2004/06/03 00:00
モナコの1週間後のニュルブルクリンク。佐藤琢磨はまた白い悪魔の出現でマシンを降りなければならなかった。
2位バリチェロとの接触による不測のピットインで初表彰台は遠のいたが、今季3回目の5位入賞を十数周後に控えた47周目の最終コーナーを立ち上がった佐藤琢磨車のリヤから今年4回目のオイルスモークが噴き出し始め、ストレートでそれは大煙幕と化し、琢磨はピットウォール脇にマシンを止めてコクピットを降りた。その横を3位に上がったチームメイトのバトンが駆け抜ける。
ピットウォールで琢磨は両手を挙げる仕草を2回。それは「なぜボクだけが!」という叫びとも見えた。
今年の琢磨は2戦ごとにエンジンから白煙を吐いてリタイアしている。しかし現象は同じでも原因はそれぞれ違う。
第2戦マレーシアは純粋なエンジン・トラブルで、オイル・システムの不具合だった。第4戦サンマリノは最終的にエンジンが壊れたが、その原因を作ったのは制御系の誤作動を起こしたギヤで、3速から4速にアップすべき場所で勝手に2速にシフトダウンするなどのいたずらにより、エンジンが過剰回転を起こして壊れたのだった。第6戦モナコは冷却水のリリーフ・バルブの故障でオーバーヒート。この部品はF1を統括するFIA(世界自動連盟)が支給するもの。では、今回のニュルブルクリンクでの原因は何か?
「エンジンが壊れるまで水温も油圧も正常なデータで、いきなり来た。バラしてみないと原因はわかりません」とはレース直後のホンダのエンジニアの説明だが、どうやらその原因のアタリはついてるらしい。バリチェロとの接触で予定外のピットインをしたが、そのこと自体がエンジンの何かにダメージを与えたのではないか、というのがエンジニアの方のニュアンスだった。ホンダ・エンジン固有の特性があの白煙を呼んだのか……。
このニュルブルクリンクで、佐藤琢磨は日本人初の予選最前列を得た。スターティング・グリッドの前方のながめはよく、ポールポジションのシューマッハーを1コーナーで食ってやる! との意気込みでスタートに臨んだというから頼もしい。
46周目の1コーナーでバリチェロのインに飛び込んだのは早計で、あと1周待つべきだったという見方もあるが、筆者は与しない。あと1周待ったらバリチェロはガードを固めて隙を見せない。意表を衝いた攻撃だからこそ有効なのだし、ピットオフ直後の琢磨車の新品タイヤは抜群のグリップを発揮していた。翌周になるとそのグリップはなくなる。あのアクシデントは、たかをくくってミラーを見なかったバリチェロにも責任の半分はある。
次戦のカナダにホンダは新しいエンジンを投入する。佐藤琢磨の初表彰台は2週間後のモントリオールとなるようだ。