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佐藤琢磨が見せた本物の煌き。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

PROFILE

posted2004/06/15 00:00

 5月のモナコグランプリとニュルブルクリンクでのヨーロッパグランプリは、見ていて久しぶりに興奮した。

 ホンダがやっとホンダらしいレースをするようになってきたからだ。シーズン前のバルセロナでのテストで、BARホンダがコースレコードを更新したと聞いて胸を躍らせたのは2月のことだったが、進化は本物だったのである。モナコでもニュルブルクリンクでも、ジェイソン・バトンがそれぞれ2位と3位になり、表彰台に立った。まだフェラーリとシューマッハーにはおよばないが、彼らがすこしでもミスをすればすぐに彼らにとってかわれる位置まできたことは疑いようがない。

 だが、それにもましておどろいたのは、佐藤琢磨の走りだ。モナコでは、スタートで7位から一挙に4位に抜け出し、ニュルブルクリンクでは、予選でシューマッハーにつぐ2位につけた。両方ともエンジンが壊れてリタイアしてしまったが、いずれにしても並みのドライバーにできることではなかった。エンジンが壊れていなければ、おそらく両方とも表彰台に立っていただろう。

 それを惜しかったという人がいる。とくにニュルブルククリンクでは、3位を走っていた46周目のコーナーで2位のバリチェロに勝負をしかけて接触し、それがエンジンブローの原因になったかもしれないからだ。しかし、それが何だというのだろう。すくなくとも、ぼくは、2位の車をとらえたというのに、3位を守るためにそのうしろをのろのろと走るようなドライビングは見たいと思わない。彼はF1ドライバーとして当然のことをして、たまたま不運に見舞われたに過ぎないのである。

 しかも、あれは、モナコでのスタートダッシュやニュルブルクリンクでの予選2位が示すように、彼にとって2位になる千載一遇のチャンスでもなかった。むしろ彼は、あれによって、これからはいつでも優勝争いに加われる誰にとっても危険なドライバーだということをサーキット中に知らしめたのである。何とすばらしいことだろう。

 20年前が夢のようだ。

 当時、日本にはF1ドライバーがいなかったが、そのころレース関係者が集まると、必ず話題になったのが、日本は世界でも有数の自動車生産国なのに、なぜ優秀なレーシングドライバーは育たないのだろうということだった。その後、中嶋悟をはじめとして何人かのドライバーがF1ドライバーになったが、それでもその話題は絶えなかった。じっさい彼らはF1ドライバーにはなったが、ついにトップドライバーの仲間入りすることはできなった。われわれも、彼らがモナコで3位を走ったり、予選で2位になることなど想像もしなかった。

 そして、その話題の結論はいつもつぎのようなものになった。

「何ごとも、一流になるまでには三世代かかるんだよ。中嶋だって、車に乗っているといっても、生まれたときから乗っているわけじゃない。期待できるとしたら、中嶋たちの子供の世代だろう」

 佐藤琢磨はその世代といっていい。

 時代は変わったのである。これからは、ホンダと彼から目が離せない。

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