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須藤と五味にみる格闘技界の未来。 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2005/10/05 00:00

須藤と五味にみる格闘技界の未来。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 「うわっ、ホントに上がっちゃったよ…」

 驚きの光景。プレス席にいた記者たちは声をあげ一瞬目を疑った。

 9月25日、東京・有明コロシアムで行なわれたライト級とウェルター級のトーナメント『PRIDEグランプリ 2005』。

 その舞台、大晦日の決勝戦へ駒を進めリング上で抱負を語っていた五味隆典が突如「ユニークな友人を紹介します」と、盟友である須藤元気を招き入れたのだ。

 意外な展開にどよめくお客さん。なかには「元気〜っ!」と、うれしい悲鳴をあげる人もいた。須藤は、歩を進めロープをまたぎマイクを握るとハキハキとした口調で「仲間の五味クンや先輩のマッハさんとは出ている大会がちがいますけど、格闘技全体を盛り上げていきたいと思いますのでよろしくお願いします」と堂々と一言。応えるように沸きに沸く観衆。スポーツ紙などではあまり大きく報道されなかったが、会場が試合同様に熱を帯びた瞬間だった。

 ご存知のように須藤は、大晦日にHERO'S(=K−1)で山本“KID”徳郁と対戦が決まっているPRIDEにとってみれば、絶対に負けられない競合相手の看板選手である。ここ数年のPRIDEとK−1の敵対関係を考えてみれば記者ならずとも「リングに上がっちゃって大丈夫?」となるのは当然で、団体に気を使ったスポーツ紙の小さい扱いもしかり、彼らの行動はデリケートな問題をはらんだ前代未聞の出来事だったというわけだ。

 こうなると“移籍”や“引き抜き”といった格闘技界の“負”の部分がほのかに匂ってくるものだが、なにをいわんやこれは五味と須藤が独断で行なったことだという。両団体の関係者はまったく知らされていなかった。

 時代が動くかも──そんな予感がする。

 この格闘技界にあって多くのファンが望んでいることはK−1とPRIDEの建設的交流であることはまちがいない。利害関係やスター選手確保など戦略的な問題から現在は難しい状況にあるが、いつかは……と夢をみたい。なにも一緒になれとは言わない。PRIDEとK−1が二大政党のように各々スタンスをもちつつ競い合い君臨し、そこを目指し選手たちが切磋琢磨する。加えてスムーズな選手たちの交流を望みたいのだ。プロ野球でいうセパ交流戦やオールスターゲームのような対抗戦があってもいいだろう。どれほど魅力的なカードが作れ、より一層世間に対し格闘技が注目を浴びることか。

 選手レベルで見てみれば、団体や組織の壁を超え合同練習をしているファイターたちも数多く、ライバル心はあれど個人的に互いのフィールドを隔てる軋轢はほとんどない。オフレコではあるが「一緒にやってくれたらなあ」と、ぼやく選手もけっこういる。

 そこで須藤と五味という、互いに“兄弟”と認め合うふたりの存在である。

 “実力なき者、語る資格なし”は、どこの世界でも常だが、彼らはどこかの国会議員一年生ではない。各団体のトップに位置する、その発言に影響力をもった選手であり、また長く内側から格闘技界を見てきた目も鼻も口もあるオトナだ。だからこそ今回の彼らの行動には深い意味がある。何といっても絶対にタブーと思われていた行動なのだから……。

 須藤はかねてから「手を繋ぎあって友好的に切磋琢磨していけたら日本の格闘技界はさらに盛り上るのに」と冷静に、まるで格闘技界を俯瞰するかのように語っている。そう、彼が謳う『We

Are All One』の精神であり、この信念ゆえ今回の行動があったのだろう。

 さて、このリングの賢者たちは、これから格闘技界にいかなる変化をもたらしてくれるのだろうか。今はまだ一石に過ぎないが、思いは馳せる。選手の権利を守るため、ファンのニーズを団体に反映させるため選手会を組織し、ヤクルトの古田敦也のように矢面に立ち改革を行なったり……統一コミッションもないのに飛躍的な考え方かもしれないが、須藤と五味の若さ、強さ、実行力には他の選手にはないオピニオンリーダーとしての輝きが見られるのだ。追い風よ吹け、である。

須藤元気
五味隆典

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