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日本式ポスティングシステムへの疑問 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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posted2005/12/12 00:00

日本式ポスティングシステムへの疑問<Number Web> photograph by AFLO

 唐突だが、皆さんはポスティングシステム(入札制度)について、どう考えているのだろうか?このオフも同制度を利用してメジャー移籍を目指すヤクルト・石井投手や西武・松坂投手の一連の報道を見ていて、現行の制度が十分なものだとはどうしても思えないのだ。そんな考えが強くなっていた矢先、先日インターネットで某スポーツ紙のサイトをチェックしていたら、巨人の清武球団代表が、プロ野球の実行委員会で同制度の撤廃を訴え、次回委員会で見直し作業に入るというニュースを目にした。それによると同代表の意見は、以下のようになっていた。

 「このままいけば日本のプロ野球界も崩壊につながるし、FA自体が形骸化につながる。年俸交渉のときに毎年(同制度による移籍を)持ち出されて混乱につながる」

 確かに同代表の言うとおり、最近は若手のスター選手たちが続々と同制度を利用してメジャー挑戦を表明するようになった。前述の2選手以外にも、昨年は巨人・上原、阪神・井川両投手がギリギリまで交渉を続けたのは周知のことだ。しかし個人的には、清武代表の発言がすべて正しいとは思わない。同制度を撤廃したとしても、城島選手が日本人初の捕手としてメジャー挑戦を決意したように、今後もスター選手のFA移籍は続くだろうし、日本プロ野球の崩壊の流れを止められるとは思わない。ただ同制度が、球団側、選手側双方に何のメリットももたらさないと考えているからこそ、存在意義に疑問を呈している。

 特に今年の石井、松坂両投手のケースが端的なのだが、球団側が以前に同制度によるメジャー移籍を容認するような発言をしておきながら頑なに拒否している場合、どんな理由があるにせよ両者の間にしこりが生じてしまうのは仕方がないだろう。選手からしてみれば、石井投手なら以前にヤクルトが石井一久投手をポスティング移籍させている実績があるだけに不公平感をいだくだろうし、松坂投手なら自分は認められないのに森投手だけポスティング移籍が許されるというのも素直に納得できるものではないだろう。こんな状況では、選手たちが球団側に不信感を募らせていき、結局はFA移籍を助長するだけだ。

 元々ポスティングシステムは日本の球団側主導で、1998年12月5日に日米選手協定として誕生した。同制度による日本人移籍第一号がイチロー選手であることからもわかるように、同制度策定にはメジャー挑戦が必至な状況だったイチロー選手をFA移籍によって無償で失うことを考慮したオリックスの球団関係者が中心になっていたと記憶している。もちろん現在も同制度は、FA権取得前の選手がメジャー移籍できる唯一の方法であり、日米間で選手協定として認められている。だから松坂投手らが同制度を利用したメジャー移籍を主張するのは、彼らに認められた権限である。球団側が作り出した制度を使いたいと主張して、逆に煙たがられては選手もたまったものではないだろう。

 実は清武代表の発言に留まらず、選手側も以前から同制度に疑問を持っている。日本プロ野球選手会の公式サイトで、「海外移籍における問題点」としてポスティングシステムの問題点を5つ指摘している。

(1) 日本球団に最高入札額提示球団を拒否する権利があり、選手の移籍希望の意思が尊重されない可能性がある。

(2) 最高入札球団のみに独占的交渉権が与えられ、選手に球団を選択する自由が全く認められていない。

(3) 日本球団に支払う金銭による入札額のみで決定する手続きになっており、その他の諸条件を考慮し得ない。

(4) 最高入札球団のみに独占的交渉権が与えられてしまうので、選手が複数の球団と年俸等の交渉を行うことができず、選手にきわめて不利な制度になっている。

(5) 2002年の労使交渉によるメジャーリーグの課徴金制度の変更で、移籍の実現が非常に難しいものになっている。

 球団、選手の双方から不満が起こっているポスティングシステム。やはり一刻も早い見直しが迫られているのは確かだ。しかし単純に撤廃すれば良いというものではないだろう。人気選手の流出を本当に憂慮するなら、球団側はポスティングシステムに代わる新たな制度を見出せねばならないだろう。今後FAメジャー移籍すら認めない鎖国政策をとるのは不可能だと考えれば、選手を放出する分メジャー球界から金銭ではなく相応の選手を獲得できるような日米間のトレード完全自由化などを模索すべきだろう。

 前述通りポスティングシステムは元々日本球団側の意思で生まれたと考えれば、それに負けないほどの熱意があれば、もっと理想的な制度がきっと生まれるはずだ。

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