野球善哉BACK NUMBER
本当は皆メジャーに行きたい……。
日本野球界は菊池の涙に猛省せよ!
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/10/26 13:30
メジャー挑戦か、国内プロ入りか。
花巻東高・菊池雄星投手が、ついにその決断を下した。25日に同校内で記者会見を開き、「国内でのプレーを選択する」決意を表明した。日米20球団との面談を行うなど、自らの決断をドラフト4日前に発表した18歳の真摯な対応には、敬意を表したいものだ。
今の若い選手たちがいかにメジャーへの夢を抱いているか。
これを菊池は世間に知らしめてくれたと言っていい。昨年の田澤純一(新日本石油→レッドソックス)に続いて、今年も同じような騒動が起きたという現実は、ドラフト上位候補の高校生が日本のプロを経ずに、メジャーの舞台に挑戦する、という事態が今後も起きる可能性を示している。
「菊池騒動」は彼本人の想いの深さだけによるものではないということを、日本の野球界は直視しなければならない。
今後、このような事態が起きた場合に、日本球界はどのように対応していくべきなのだろうか。
この騒動が契機になり、再び悲劇を繰り返さぬように……。
今年、プロ野球実行委員会がとった菊池の「流出対策」は成功したといえる。たとえ菊池がメジャーに挑戦していても、最大限のことはやり尽くしたといえるはずだ。
菊池本人が「メジャー挑戦」の想いを公言していたため、誰にも悟られぬようにメジャー挑戦を決断されてしまった田澤のケースとは事情が違う。ドラフト前に、球団が選手と面談を行うということはほとんどないはずなのに、それを実現させたことは昨年の轍は踏むまいという日本プロ野球界……いや、スカウト陣たちの熱い想いがあったからにほかならない。
とはいえ、若者の大志は面談だけで防げるものではない。この騒動が契機になり、また同じようなことが起き、異なる結果を招くことも十分考えられる。昨年の田澤の件では、彼の復帰を抑制するという形で、夢を抱いた人間への「仕返し」を決断した日本プロ野球組織だが、実際は「規制」だけでは、いつまでたっても解決策は生まれない。
「田澤の気持ちは分かる」 あるドラフト1位選手の告白。
昨年のちょうどこの時期、田澤のメジャー挑戦について、ある有名選手が興味深いことを話していた。ちなみに、その選手は過去ドラフト1位で指名されており、普通に入団を果たしている。
「田澤の気持ちは分かりますよ。今のプロ野球のルールだったら、いつメジャーに挑戦できるか分からないじゃないですか。入ってしまったら、いつ出られるか分からない。だから、今のうちに挑戦しようという気持ちはすごく分かる。僕は今の時点ではメジャーに行こうという気持ちがないので、田澤のようには思いません。でももし僕がいずれはメジャーに、という気持ちが少しでもあったら同じようにすると思います」
非常に重い言葉である。
田澤と同世代の若い選手ならば、今どきはそこまでメジャーを意識しているのである。
もっとも、彼らも日本のプロ野球に魅力を感じていないというわけではない。プロの球団が菊池を説得する際に、口説き文句にあった「日本で実績を残してからメジャーに行けばいい」というのも本当によく理解している。だが、そうした想いを抱いて日本のプロ野球界入りした選手たちが、契約や規則を理由にメジャー挑戦を断念しているという現実を、現代の若い選手たちはうすうす感じているのだ。