詳説日本野球研究BACK NUMBER
野村監督の名役者ぶりに、
'73年の南海ホークスを見た。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKYODO
posted2009/10/22 11:30
10月17日、クリネックススタジアム宮城にてクライマックスシリーズ第2ステージ進出を決め、ファンの声援に応える野村監督
1973(昭和48)年、前後期制が初めて採用されたパ・リーグの前期を制したのは38歳の青年監督、野村克也率いる南海ホークス。後期は前年までリーグ2連覇をしている阪急が2位ロッテに5.5ゲーム差をつける大差で優勝し、南海は30勝32敗の成績で3位に沈んだ。
南海、阪急によるプレーオフの下馬評は圧倒的に阪急有利。それもそのはずで、阪急は後期、南海に1分けを挟み12連勝しているのだ。この阪急がプレーオフで敗れるとはほとんどの人が思わなかったが、蓋をあければ3勝2敗で南海が勝ち上がり、当時のマスコミは後期の南海の戦いぶりを「死んだふり」と形容した。弱い弱いと思わせ、阪急各選手の心に油断を生ませたというのである。
36年前の南海が現在の楽天にオーバーラップするのは、野村が今季限りの退陣をマスコミにボヤキながら、その状況をうまく利用しているように思えるからだ。
楽天はチーム一丸となって狂言を演じているのか?
CSの仙台開催を決めた10月9日にはマスコミを前に「楽天イーグルスは好きだけど、楽天球団は大嫌い」と吠え、11日にはスタメン落ちに不服を唱えて侮辱的な言動を取ったリンデンを登録抹消した。CS初戦の対ソフトバンク戦を前にした16日には自らの進退を泣きながら選手に説明し、それを聞いた橋上秀樹ヘッドコーチは「あんなことを言う監督は初めて見た」ともらい泣きしたという。
相手チームからすれば楽天のゴタゴタは嬉しい。開幕前から監督とフロントに確執が生じたロッテが5位に沈んでいるように、球団内部のゴタゴタは選手の心を疲弊させる。しかし、楽天の場合は野村監督のボヤキ、怒り、涙など感情の揺らぎに選手が惑わされていない。というより、監督と選手が一体になって狂言を演じているように見えるのだ。
CS第2ステージを戦う日本ハム・梨田昌孝監督は「俺も泣こうかな」と涙のミーティングを引き合いに出していたが、さすが2球団で優勝(近鉄と日本ハム)しただけあって、野村監督の狂言に惑わされていない。
試合中も大げさな感情表現で選手を鼓舞する野村監督。
ソフトバンク戦を振り返れば、楽天ベンチには常に選手の笑顔があり、ソフトバンクベンチには笑顔が少なかった。この空気を反映するように、野村監督は第2戦で決定的な3ランを打った山﨑武司をベンチ前で抱きかかえ、感情を爆発させているように見えた。なかなかの役者ぶりである。成熟していない楽天の選手の心を揺り動かすには、大げさな感情表現が最も効果があることを知っているのだ。
日本ハム戦は1勝アドバンテージを与えての戦いになるが、追い風は相手エース・ダルビッシュ有が右肩の不調でCS出場が絶望視されていること。第2、3戦は中5日で岩隈久志、田中将大が満を持して先発してくるだろう。楽天にいい風が吹き始めている。