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フェラーリ強さの秘密。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byHiroshi Kaneko
posted2004/07/02 00:00
フェラーリが今季6回目のワン・ツー・フィニッシュ、佐藤琢磨が念願の表彰台、パニス150戦記念、バウムガルトナー(ミナルディ)、ハンガリー人初ポイント……、さまざまな話題に沸いた第9戦アメリカ・グランプリをもって、早くも今年の前半戦が終了した。
ここまでフェラーリの独走で意外に安定したシーズン前半だったような印象があるが、それは水面上だけの話で、水面下は揉みに揉まれて、混濁した状況が続いている。いや、昨年の状況やシーズンイン直前の予想を省みると、フェラーリが圧勝していることそのものが異常なのだ。
異常というのは、昨年のチャンピオン決定は最終戦の鈴鹿で行われた。その延長線を想像すれば今年は昨年以上の大混戦と思われていた。しかし、そうならなかったのは、ふたつの理由がある。
ひとつは、フェラーリとブリヂストン・タイヤが昨年の劣勢を挽回すべく徹底的な敗因ツブシにかかり、大成功を納めたこと。マシンはダウンフォースを増やし、前後重量配分を思いっきり前に持って来た。ブリヂストンはウィークポイントとされていた前輪の構造と形状を変更。それらによって、昨年マクラーレンやウイリアムズなどミシュラン勢に後れを取ったタイトコーナーでの加減速性能が着実に向上したのだった。また、不得意な暑いサーキットでも強いことがマレーシア、バーレーンで実証された。
ふたつ目の理由は、成功したフェラーリとは逆にマクラーレン・メルセデスとウイリアムズ・BMWの二大フェラーリ・チェイサーが見事に失速してしまったことが挙げられる。いっぽうが急角度で上昇し、いっぽうが急降下すればその差は開くいっぽう。第9戦までにフェラーリがかき集めたコンストラクターズ・ポイントは、ウイリアムズ(ランキング4位)とマクラーレン(5位)の得点合計のおよそ3倍弱。この点に関してはもう勝負付けは終ったとみてさしつかえない。
ホンダの木内健雄F1プロジェクトリーダーは「彼等(ウイリアムズ、マクラーレン)はフェラーリを食おうとしたがゆえに勝負に出て失敗した。勝つにはリスクが伴う。ウチが来年そうならないとは限らない」と自戒を込めて喝破したが、ウイリアムズは新マシンの空力デザインの失敗、マクラーレンはそれにエンジンの信頼性の極端な低下が加わった。マクラーレンは無得点レースが4戦あり、ウイリアムズは2戦。また両チームとも1レースでの二桁得点が一回もない(首位フェラーリは8回、2位ルノーは2回、3位BARホンダは1回)。
名門2チームの地盤沈下によって相対的に浮上して来たのがルノーとBARホンダだ。彼等とウイリアムズ、マクラーレンを分けるのはまずトラブルの少なさ。ルノーは9戦して2台共倒れのケースが1戦のみ、BARはフェラーリと同じく無得点戦ゼロ。やはり、フィニッシュしてナンボの世界なのだ。
さて、残り9戦の後半戦をにらんで、果たしてフェラーリの独走は続くかどうか? 続く可能性大、と筆者は見る。なぜか? 大苦戦した昨年、フェラーリは中盤ヨーロッパ戦で4敗した。ヨーロッパの異常気象で路面温度が高くなり、タイヤがタレたのだ。その欠点を克服していることは上記のとおり。
それに加え、カナダからバリチェロの復調が目覚しく、シューマッハーと張合う速さを披露するようになったことは、カナダのレースでシューマッハーに迫り、同じタイヤを履いたアメリカでシューマッハーを差し置いてポールポジションを獲ったことに顕著に顕われている。そしてここが肝心なのだが、そのバリチェロが“フォア・ザ・チーム”に徹するから始末が悪い。
アメリカのレースでセーフティカーが出動した時、シューマッハーが給油しながらなおレースリーダーで居られたのは、バリチェロが我が身を捨ててペースを落とし、後続の足色をなくしたのが利いた。その結果バリチェロは6位にまで順位を落とすのだが、それでも終盤はシューマッハーとトップ争い(の真似事!? )を演じて2位になるのだから、何をかいわんやである。
考えてみれば昨年、フェラーリは開幕3連敗したが、それは天候に災いされたのが原因で、あれこそが異常現象。なんのことはない、今年は圧勝した一昨年に戻ったにすぎない。ウイリアムズ、マクラーレン、ご苦労さん。
最後にこれだけは書いておきたい。ではそのフェラーリに真っ向勝負で土をつけるのは誰か? むろん、日出る国のファイター、佐藤琢磨に他ならない。本気でシューマッハーをオーバーテイクしようと考える“レーサー”は、この佐藤琢磨とモントーヤくらいなもの。佐藤琢磨の奮戦がフェラーリのコンストラクターズ・タイトル決定を引き延ばしてくれることを後半戦の愉しみとしよう。