イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER
魅了。
text by
奥田秀樹Hideki Okuda
photograph byNaoya Sanuki
posted2001/04/25 00:00
19日から22日、エンジェルスを4タテで下したマリナーズは、15勝4敗、貯金11個と開幕ダッシュに成功した。監督室ではルー・ピネラが「うちはいい野球ができているがまだ始まったばかり。はしゃぎ過ぎるわけにはいかない」と慎重に語っている。
スーパースターのアレックス・ロドリゲスが去っても、穴埋めできている理由は何なのだろう。「ブルペンが去年より更によくなったことだね。そしてリードオフヒッターが代わったことが大きい」と明言する。
去年の1番打者は殿堂入り確実なリッキー・ヘンダーソンだった。
「リッキーの悪口を言うつもりはないが、所詮は引退目前の選手だ。一方、イチローは今が選手として脂が乗りきっている。比較にはならない」
トータルプレイヤーであるイチローのインパクトは、走攻守全てに現れている。だが、特に衝撃的なのは、守備である。
左腕のベテラン投手ジェイミー・モイヤーは「守りで一歩目が断然早い。バットとボールが当たるところを見て、どんな打球が来るのか判断する能力があるからだ。メジャーでも10年前ならデボン・ホワイト、デイブ・ヘンダーソンなど、それができる外野手がいたが、最近ではほとんど見かけなくなった」と指摘する。
モイヤーによると、この10年間でメジャーの野球の質が随分変わったのだそうだ。
「ESPNやCNNのハイライトで、ホームランが野球の全てというような映像が流される。選手はみんなそれに乗ってウエイトトレーニングに励み、筋肉を増やし、バットスピードを速くする。その一方で体が重くなりすぎて、広い外野を守るには動きが鈍くなり、守備への細かい気配りに欠けてしまっているんだ」。
モイヤーはこんな言い方をする。
「イチローはメジャーのパワー野球に汚染されていない。だからいいのではないか」
筆者は、細い体では力負けすると思っていた。それはホームラン絶対主義の価値観で見たものだった。
しかしベースボールはパワーが全てではない。スピード、クイックネス、細かい技術など、他の方法で勝利に貢献できるし、ファンを魅了できる。セーフコ・フィールドを埋めた4万4千人のファンはイチローのプレーに野球の面白さを再認識している。
モイヤーにイチローの存在が、メジャーがパワー一辺倒の野球から脱却するきっかけになるのではと尋ねてみた。
「個人的にはそう望みたいね。でもどうだろう。スタンドのファンに聞いてみればいい。2対1の試合と10対9ではどちらが好きかってね。たいていが10対9を選ぶと思うよ」
これから東部遠征。ニューヨーク、シカゴのファンはイチローのプレーをどう見るのだろうか。