Column from SpainBACK NUMBER
バスク人の誇りをかける最下位ビルバオ。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2005/11/11 00:00
1997−98シーズン、FCバルセロナが断トツで優勝を飾ったわけであるが、地味ながらも2位に着けたのがビルバオで3位がレアル・ソシエダだった。今思えば懐かしい時代である。ボスマン裁定以降、外国人枠の規定が緩くなるなかでビルバオだけは頑としてバスク人だけのクラブを貫き通してきた。
その当時の監督はルイス・フェルナンデスで、彼はフランス系バスク人の血を引き継いでいることからリザラズ(現バイエルン)とともにビルバオで気を吐いた。翌シーズンではチャンピオンズ・リーグにも出場。最終節でユベントスに敗れて決勝トーナメント進出の夢は消えたが、バスク民族だけでヨーロッパの舞台で戦ったことは、彼らが誇る「エウスカディ(バスク人の団結)」という政治的理想をフットボールで表現したことにも繋がる。
ところが、今シーズンのビルバオは危機にさらされている。最下位を低迷し続け、10月31日、ついにメンディリバル監督が解任される。新監督も、もちろんバスク人のハビエル・クレメンテ。1984年にリーグと国王杯の2冠をビルバオにもたらした、いわばバスクの英雄である。それだけに、就任初日の練習には4000人のファンが訪れて、エールを送った。55歳の彼がベンチで指揮を執るようになってから35年が過ぎた。スペイン代表監督に、ベティス、レアル・ソシエダ、マルセイユ。エスパニョールではUEFAカップ決勝を戦った実績もある。そんな経験豊富な指揮官が最初に選手に伝えた言葉というのが、「冷静」だった。最下位、2部落ちというプレッシャーを跳ね返して、前に進んでいくには、冷静でいなければ始まらない。
11月5日、モンジュイック・スタジアムで行われたエスパニョールとのデビュー戦は、前半に先制点こそ奪ったが、87分に途中出場のコロミナスに同点ゴールを決められた。2部落ちの危機にさらされているのは何もビルバオだけではない。エスパニョールも、UEFAカップでは勝ち進んでいるが、リーグでは不振に喘いでいる。ロティーナ監督も首の皮一枚の状況だ。
チェルシーにデル・オルノを、バルセロナにエスケーロを放出したビルバオ。さらにウルサイス、エチェベリア、ゲレーロら元スペイン代表選手らに衰えを感じずにはいられない。しかし、明るい話題もある。若手の成長だ。アランスビア、イェステ、オルバイスらは1999年アンダー20世界大会で優勝したメンバーだ。現アンダー21スペイン代表FWのジョレンテもいる。また、冬の移籍マーケットではエスケーロを呼び戻す交渉をしており(彼はバルサでわずか4試合、トータル63分の出場しかしていないから)、実現すれば大きな戦力となるだろう。
バスクは独特の言語だけでなく、スポーツの文化も代々引き継がれている。ペロータと呼ばれるゴムマリを素手で壁打ちする競技や、大木をノコギリで切って争う古典的なスポーツもある。格闘技も盛んで、なかでも植松兄弟は有名だ。キヨシとケンジ。日本人の父とバスク人の母を持つ柔道家。ちなみに彼らはゲレーロのご近所さん。また、陸上に自転車、ゴルフ、アイスホッケーにも優秀な選手を送り込んでいる。
スポーツ文化が根付いた街であり、しかも古き時代を大切にしてもいる。2部降格なんて、悲しすぎる。だから、ビルバオをよく知るクレメンテが戻ってきたとき、4000人のファンが出迎えた意気込みはよくわかる。これで、弱かったら意味がない。バスク人だけで戦える。スペイン代表よりも優れている、と。
「あと、3、4年は現場で指揮が執れる。引退するまでにアスレティックでもう一度、タイトルを獲得したい」とクレメンテは言う。