野球クロスロードBACK NUMBER
プロ4年目のロッテ・唐川侑己に何が?
「勝てる投手」への目覚ましい変貌。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byShigeki Yamamoto
posted2011/05/30 12:10
ちょうど1年前の5月は、右手に打球をうけて中指を骨折して登録抹消となっていた唐川。日本シリーズに出場はしたが、今年は先発ローテーションをきっちり守りたいところ
ミスから自力で立ち直り、試合を作る強さを得た唐川。
初回、唐川の投球は淡々としていた。
1番・坂本勇人への初球は鋭いスライダーで空振りを奪ったが、2球目のカーブはど真ん中へ入り二塁打。続く藤村大介にも簡単に犠打を許し、さらには三塁への送球が野選となりピンチが拡大。そして、3番の長野久義には外角一辺倒の投球で簡単に犠牲フライを打たれ、あっさりと1点を与えてしまった。
2回も先頭の矢野謙次に二塁打されるなど不安を滲ませていたが、3回になると、それまでの外角中心の投球から内角を効果的に使いつつ緩急も巧みに操るようになるなど、唐川に明らかな変化が窺えた。
若手の場合、本来、捕手や投手コーチの助言で投球内容が変わることは少なくない。しかし彼は違っていた。「別に変えたわけじゃないんですけど」と言いながらも、3回以降の投球についてこう解説する。
「特に誰かに何かを言われてはいません。初回から調子が良かったですし、リズムよく投げられていたとは思います。ただ、外を中心にしながらも、たまにインコースも投げる。回の先頭打者の入り方も慎重に、それでいて思いっきり投げるようにはなりました」
ベンチの信頼があるからこそできる、強気の勝負。
冷静に己を見定め、状況に適した投球に修正することはできた。しかし6回、若いが故に、とでも言うべきか、自ら慢心をボールに宿してしまう。
2連打と犠打で1死二、三塁としたところで、この試合で2安打を浴びている矢野への初球。高めへ甘いストレートが入ってしまい、ライトへ運ばれる犠牲フライで重い2点目を献上してしまった。
わずかな隙だった。唐川自身、その一球をこう振り返った。
「ボールから入るとかもっと慎重になるべきでした。調子が良かっただけに欲を出しすぎたというか、反省点ではありますよね」
この回、現実的な戦術を言えば、満塁策という選択肢もあったはずだ。しかし、ロッテベンチはそれをしなかった。
「満塁策は頭のなかにはありましたけど、することは考えていませんでした。初球の入り方をしっかりしないといけないという反省点はベンチにもありますけど、彼は何とか切り抜けてくれましたよ」
そう西村徳文監督は言う。結果的に采配は裏目に出たものの、指揮官は満塁策というベンチワークより唐川の投球を信じたのだ。