Column from EnglandBACK NUMBER
『ワールドカップの次に価値のあるカップ』、FAカップもお忘れなく
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2005/03/30 00:00
去る3月初旬、イングランドFA(サッカー協会)は、来年度のFAカップに関するフォーマットの変更を発表した。UEFAカップに出場しているクラブは第5・第6ラウンドで、チャンピオンズリーグ出場クラブは第6ラウンドで、それぞれ再試合を免除されるというものである。
ドイツでのワールドカップに臨む(であろう)イングランド代表に、きっちり4週間の準備期間を与えるには、来年度のシーズンを5月13日(土)までに終える必要がある。FAの改革案の真意は、シーズン終盤にどうしても日程が立て込んでしまう欧州組の再試合を排除することだった。これが実現すれば国内リーグを5月6日に終え、13日のFAカップ決勝でシーズンを締め括ることができるようになる。一時はFAカップ決勝が平日の夜に開催されるという噂もあったのだが、さすがにそれは「あり得ない」ということになった。
しかしFAの編み出したこの苦肉の策は、国内の監督連中から激しい非難を浴びることになってしまった。諸手を上げて歓迎したのは、イングランド代表のスベン・ゴラン・エリクソン監督ぐらいであろう。
たかがカップ選手権と侮ってはいけない。130年を超える歴史を誇り、総勢600以上のクラブが頂点を目指すFAカップは、イングランド・サッカー界において圧倒的な魅力と重みを持っている。プレミアシップなど夢のまた夢である下部リーグの選手たちにとっては、一生に一度の晴れ舞台に立つことがきるかもしれないというロマンもある。1978年にイプスウィッチ・タウンを率いて優勝を果たしたサー・ボビー・ロブソンは、「我々はワールドカップの次に価値のあるカップを手に入れたのだ」と語っていた。
ファンの人気も絶大だ。先に行われた、チャンピオンズリーグでのチェルシー対バルセナ戦の国内平均視聴者数は620万人。これに対してエクセター(4部)対マンチェスター・UのFAカップ第3ラウンド再試合は、680万人もの視聴者を集めた。また第4ラウンド、シェフィールド・U(1部)対アーセナルの再試合での瞬間最大視聴者数は、700万人にも上っている。イングランドの国民にとってのFAカップは、今でも見逃すことのできない一大イベントなのだ。
シェフィールド・Uのニール・ウォーノック監督は、次のようにコメントしている。
「FA自らが、FAカップという聖域を侵そうとしているのだから嘆かわしい。アーセナルとの再試合は、好勝負だっただけでなく、クラブに1億円近い収入ももたらしてくれた。(再試合免除という)フォーマットの変更が避けられないのだとしたら、少なくともUEFAカップやチャンピオンズリーグ組が出場する第5・第6ラウンドは、無条件でアウェーの試合とするべきだ」
対するアーセナルのアーセン・ベンゲル監督は、イングランドでの試合数の多さを問題視しているため、かつては再試合反対派だった。しかし、今では立派なFAカップ擁護者の1人となっている。
「FAカップの歴史とその存在意義は尊重されるべきだ。(シーズンを早めに切り上げたいのならば)チャリティー・シールド(前季のリーグ覇者とFAカップ優勝者が対戦する試合で、リーグ開幕前に行われる)をなくして、開幕を1週間早めるという方法もある」
FAカップの魅力は万国共通。カップ選手権を軽視しがちな欧州大陸出身の選手たちも、一度イングランドでFAカップ戦を経験すれば、すぐにその“熱さ”の虜になってしまう。特に、ウェンブリー・スタジアムで行われる決勝戦の盛り上がりは格別だ。(ここ数年は、カーディフのミレニアム・スタジアムが決勝の舞台となっているが、来年からは新装なったウェンブリー・スタジアムに会場が戻される)
今年のFAカップも、いよいよ4強が出揃った。4月の16日にはアーセナル対ブラックバーン、17日にはニューカッスル対マンチェスターUの試合が行われる。アーセナルとマンチェスター・Uにとっては、今季唯一のタイトル獲得のチャンス。ニューカッスルは、半世紀ぶりのFAカップ優勝で、アラン・シアラーの引退に花を添えたいと切望している。現役時代に4度のFAカップ優勝を経験しているマーク・ヒューズは、ブラックバーンを率いて監督としての初優勝を目指す。世界で最も有名なカップ選手権の見所は尽きない。