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From:ギマランイス(ポルトガル)「日本人の行動力」 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2004/06/28 00:00

From:ギマランイス(ポルトガル)「日本人の行動力」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

ポルトガルの各都市は、どこもかしこも

日本人だらけ。なのにサッカー協会関係者の

姿が見当たらないのはどうしてだろう。

 日本人恐るべし。ユーロ2004の現場で、僕はそのパワフルな行動力に改めて驚かされている。まさに犬も歩けば棒に当たる状態だ。ポルトガル各都市の町中では、コリアンでもチャイニーズでもない一目で日本人だと分かる人間を、たちどころに発見できる。昨夜も、リスボンの「ルス」で、クロアチア対イングランド戦を見た後、定宿近くのレストランに駆け込んでみると、テーブルの奥には彼らがどっかと座っていた。いま僕は、ギマランイスのプレスセンターにいるのだけれど、その窓越しに外を眺めても、イタリアンブルーを身にまとい、顔にペインティングを施した日本人女性2人組を、苦もなく見つけることができる。そうかと思えば、いまLAN回線に接続されているノートパソコンには「いついつポルトガルへ行きまーす、よろしく」なんて調子のメールが舞い込んでくる。

 予想されていた事態ではある。出場国への割り当て分を除くチケット売り上げで、日本は世界第6位にランクされたという事実がある。ユーロの一員でもないうえに、開催国のポルトガルから、どこよりも遠い国(オセアニアの方が遠いか)。「なのにどうして」。大会前の事前取材で、この事実を教えてくれた実行委員長のアントニオ・ラランジョさんも、日本人であるこちらに感謝の意を伝える一方で、怪訝そうな顔を隠しきれずにいた。

 目につくのは年配者の姿だ。20代は少ない。多いのは30代後半〜40代で、ちょっとリッチそうな雰囲気の熟年カップルの姿も案外ある。ミーハーというよりサッカー好き歴の長い大人のファン。その昔、唯一の海外サッカー番組だった「三菱ダイヤモンド・サッカー」を見て育ったファン。つまり僕と同じような世代の日本人が、パワーを全開に、遙か彼方までユーロ2004の旅を楽しみにやってきているというわけだ。年を重ねても衰えることのない好奇心、アドベンチャー精神に、僕は素直に敬服する。

 だからこそ、不満を覚える点もある。サッカー協会の関係者は、なぜこの大会へ視察に来ないのだろうか。少なくとも僕は、いまの時点で、その姿を発見できずにいる。とても寂しいことだ。本来、ファンをリードするべき立場にある協会が、実は一番遅れている。サッカーへの好奇心が低い。僕は強くそう思う。

 一方、ポルトガル人が日本にやってきたのは16世紀。いまから500年も前に、南蛮船で、喜望峰を越え、インド洋を渡り黄金の国ジパングに辿り着いた。凄いことである。ポルトガル人の航海術を、NASAに匹敵する事業と評価するのは、他ならぬNASA自身だが、この歴史的な事実を持ち出すと、いまポルトガルを訪れている日本人の行動力は途端に霞んで見える。サッカー協会の貧しい行動力は、より顕著になる。

 外に何かを求めて旅に出れば、学び、吸収すべき点は多々見つかる。連日移動、連日観戦のハードな旅は続くが、疲労感は全くない。それを感じる前に、新鮮な何かが次々に目の前に飛び込んでくる。試合はどれも最後までもつれるし、スタジアムは抜群だし、ポルトガル人は優しいし、食事は日本人にぴったりの昔懐かしい味だし、外国人ファンで現場のムードは滅茶苦茶カラフルだし、今回のユーロはいつになく楽しい大会だ。来てみて得をした感を僕は存分に満喫している。

 どこが優勝するかなんてことは、もはやどうでもいい話になりつつある。毎日が面白ければそれで良い。毎日いろんなことにビックリできれば、それで幸せ。多分、僕以外の日本人旅行者も、そんな大らかな気分に浸っているに違いない。肩の力を抜けば抜くほど楽しめる。逆に、いろんなことが見えてくる。旅とはそういうモノだと僕は思う。

 日本でテレビ観戦している人には申し訳ないけれど、ユーロ2004は最高です!

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