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正統派への階段――ルーク・リドナー
text by
小尾慶一Keiichi Obi
photograph byNBAE/gettyimages/AFLO
posted2005/05/19 00:00
自身のウェブサイトで、田臥勇太はお手本となる選手を2人挙げている。1人はナゲッツのアール・ボイキンス。2人目は、ソニックスの2年目ガード、ルーク・リドナーだ。
オフェンス志向の強いボイキンスに対し、リドナーはパッシングを優先する正統派PG(ポイントガード)である。185cmと小柄で、運動能力もさほどないが、本来PGが持つべき資質――仲間を活かすパスセンス、プレーの先を読む洞察力、視野の広さ、ボールのキープ力――をほとんど全て備えている。技術だけではない。ボールのないところでも常に動き、パスが回りやすい状況を作り出して、チームメイトに得点やアシストを決めさせる。シュートやドライブの際も個人技に頼らず、チームプレーを多用して攻撃の流れを途切れさせない。運動能力が重視されるNBAで、これほどお手本になる選手も珍しい。
03年にドラフト14位指名された時には、正統派PGの頂点、ジョン・ストックトンと比較されることもあった。ルーキーシーズンは控え選手として過ごしたが、2年目に入った今季はスターターに定着。48分換算アシスト(リーグ12位)、アシスト・ターンオーバー比率(同11位)などで好成績を残し、チームの躍進に大きく貢献した。得点面でも成長し、フリースロー率は88.3%(リーグ7位)を記録。平均得点も2桁に乗せた。プレイオフ2回戦のゲーム4では、第3クォーターだけで15点(FG率100%)をあげる活躍を見せ、強豪スパーズを撃沈している。
果たして、リドナーは正統派の道を極めることができるのだろうか。
「ルークはまだチームの動かし方を学んでいる段階だ」とヘッドコーチのネイト・マクミランが言うように、リドナーはまだ24歳で、現時点では有望な若手の1人に過ぎない。しかし、ひとつ確かなのは、PGは成熟に時間がかかるポジションであるということ。今年MVPを受賞したスティーブ・ナッシュも、5季目まで目立った成績を残すことはできなかった。
「PGが成長に4、5年かかるのは普通のことだよ」とシアトル地元誌の記者、リッチー・マイヤーは言う。「あのストックトンでさえそうだった。今季はルークの2年目だから、数年間は答えを出せないと思う。でも、もしかすると、ある日突然、彼は次代のストックトンになれるかもしれないよ」
そうだとすれば、その転換期はいつだろう。それが今日であることを信じて、彼の可能性に声援を送りたい。
■現地直撃インタビュー
[5月14日、シアトルにある練習場にて]
――ストックトンやナッシュと比較されることについて、どう思う?
すごいことだよね。だけど、僕にはまだ上達すべきことがたくさんある。もっとプレーの幅を広げなくちゃ。だから、これからも努力を続ける必要があると思う。
――点をとるのと、パスで皆の力を引き出すことでは、どちらが好き?
それはもう、チームメイトの力を引き出す方だよ。もちろん、NBAレベルでは、ディフェンスを引きつけるために自分で得点を取らなきゃいけない時もある。でも、僕がやろうとしているのは、何と言っても、チームメイトにうまくプレーしてもらうことなんだ。
――君のシュートは非常にクィックだけど、意識してそうしているの?
そう。それについては以前から取り組んでいるんだ。今までずっと、シュートを(素早く)放つ練習をしてきた。ハーフコートオフェンスでは、ある程度ジャンプショットを沈める必要があるのは間違いないしね。すごくたくさん練習してる。
――スパーズのトニー・パーカーとの対決についてはどう?
彼はうまいよ。スパーズは(彼を通して)色々なプレーを使ってくるから、それに備えてずっと気を張っていなければならなくて。パーカーは良い選手だけど、だからこそ対戦しがいがある。次の試合を楽しみにしているよ。
――仲間の力を引き出すことについては、君の方が上のようだけど?
そうだね。彼はコートで得点を取ることが好きで、僕は誰かを見出してパスをするのが好き。だから、その調子でプレーを続けていきたいね。
――日本には、君をお手本にする選手がいるよ。
僕たちは皆、お互いに学んでいるんだと思う。皆、誰かから少しずつ学べるはずだ。絶対、僕らはお互いに支えあっていける。
――ジャパンゲームで日本へ行ったと思うけど、日本のファンに一言。
うん。日本では楽しかったし、おもしろかった。バスケットをするために旅するなんて、ご機嫌だよ。また行って、プレーして、しばらく滞在できればいいなって思ってる。そういうのはすごく楽しいからね。