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172cmのスラムダンカー 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2005/06/27 00:00

 プレイオフが終わりを告げ、新たな闘いが始まった。開幕までの数ヶ月間、各球団は優勝するためのチーム構築に全力を注ぐことになる。

 その第一歩が、6月28日に行なわれるNBAドラフトだ。当然、チームの浮沈を握る上位指名候補に注目が集まるが、本当におもしろい選手は下位指名から見つかることもある。未完成で未知数であっても、個性となり得るセールスポイントがあれば、十分チームに貢献できるのだ。ドラフトのエリートではなく、あえて一芸に秀でた選手に目を向けるのもまた一興である。

 その意味で、ワシントン大出身のネイト・ロビンソンには注目したい。

 ロビンソンは1984年生まれの21歳。172センチ(登録上は175)・82キロという一種異様な体格で、バスケット選手というよりも、格闘家やアメフト選手のように見える。驚異的な運動能力を誇り、2メートル級の選手を相手に一歩も引かず、空中での接触プレーをものともせずにシュートを押し込む。垂直跳びは何と111センチ。この身長でダンクも易々と決めてしまう。

 得点力とドライブの切れ味を買われ、ワシントン大ではシューティングガードを務めることが多かった。3年生だった昨季は、平均16.4点、4.5アシスト、3.9リバウンド、1.7スティールと活躍。チームをNCAAトーナメントのスィート16(ベスト16)へと導き、2年連続でカンファレンス1stチームに選出された。チーム1の人気者で、ファーストブレイクでボールを持つだけで歓声が上がる。

 だが、ドラフトの指名順位は全体30位前後だろう。上位指名を得られない一番の理由は、やはり172センチという身長だ。今後はポイントガード(PG)を務めることになるが、NBAでは190センチ台のPGも多く、サイズ面では不利である。少なくとも、そう信じているチームは多い。デンバー・ナゲッツで活躍中のアール・ボイキンス(165センチ)が、大学で平均25点以上あげながらドラフトされなかったのは有名な話だ。

 プレー面でも改善の余地はある。78%台のフリースローはもちろん、シュート全般で上達する必要がある。3Pシュートは年々うまくなっていて、3年生時には38.5%まで確率を伸ばしたが、シュートリリースのスピードを高めなければNBAではブロックされてしまうだろう。また、ディフェンスへの意識も変えていく必要がある。ヘルプディフェンスに飛び出すタイミングや、スクリーンの交わし方など、学ぶべき点は多い。

 しかし、彼にはそうした弱点やハンデを補う才能がある。1児の父となり、プロの世界に飛び込む覚悟もできている。小型PGの系譜を継ぐ者として、歴史に残る活躍を見せてくれるかもしれない。

 まずはドラフトの結果が楽しみだ。1巡目か、2巡目か。はたまた、ボイキンスのようにドラフトに漏れ、いばらの道を歩むのか。そうした浮き沈みも含めて、注目していきたい選手である。

■危機は去り、挑戦の夏へ

 21日の記者会見で、オーナー側と選手会が新労使協定に基本合意したことが明らかになった。NBAファン、そして田臥勇太ファンにとっては嬉しいニュースである。旧労使協定は今月末で期限が切れるため、それ以上交渉が長引けばロックアウト(*この場合、オーナー側が練習所などの施設を閉鎖すること)に突入するのは間違いなかった。そうなれば、少なくともサマーリーグは中止。 FA契約が許可される時期も大幅にずれ込む。夏の間に実力をアピールしたいFA選手にとっては、非常に不利な話なのだ。ロックアウトが回避されたことで、田臥は再び挑戦の夏を迎えられたのである。

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