杉山茂樹のサッカー道場BACK NUMBER
高貴なる敗戦が観たい!
日本代表に必要な「真の強化」とは?
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byTakuya Sugiyama
posted2010/01/25 10:30
6月、オランダとの再戦でエンタメ性の高い好試合を目にすることはできるだろうか
敗戦という事実に勝るエンタメ性がサッカーにはあるのだ!
負け試合にエンタメ性を見出せる点こそが、サッカーの特徴だと僕は思う。観戦した充実感、満足感を味わえるケースが負け試合にもあるのだ。
この4年間で、最も記憶に残っている試合はと問われれば、僕は迷わず0-3で敗れたオランダ戦(昨年9月)を挙げる。悔しい試合ではあったが、グレードの高い試合。高貴な試合でもあった。凡庸な勝利よりはるかに面白かった。
これこそサッカーが世界でダントツの人気を誇る理由だと思う。「勝てば喜び、負ければ悲しむ」だけでは、弱者はいつもつまらない思いをする。そして、サッカーが弱い国では、サッカー人気は高まらないことになる。
サッカーは敗戦を受け入れ、ポジティブにとらえる風土によって支えられているのだ。言い換えれば、敗戦という事実に勝るエンタメ性がサッカーにはあるということ。「勝てば喜び、負ければ悲しむ」だけというのは、けっしてサッカー的な楽しみ方ではない。敗戦を必要以上に怖がるべきではないのだ。
普段からW杯本番に近い環境に慣れておく必要がある。
南アフリカ・ワールドカップでの日本代表の前評判は、けっして高くない。ブックメーカーの予想では、後ろから数えて「ベスト4」になる。天地をひっくり返さないと、頭から数えて「ベスト4」にはならない。そうした天変地異は、そう簡単には起きないのだ。ひとつ勝つことさえ簡単ではない。日本代表にとっては、普段とは別世界の、非日常的な世界に身を委ねることになる。
勝利に慣れること、勝ち癖をつけることが「強化」ではない。負け癖をつけてもらっては困るが。普段からワールドカップ本大会の環境(強豪国との対戦、アウェー試合など)に慣れておくこと。これが「強化」なのだ。
日本があっけなく勝つ試合より、きちんとした試合が観たい。普通に面白い試合が観たい。強豪との真剣勝負が見たい。
そうしたサッカー的な声に、協会は応えられずにいる。世界一とも言われる年間予算を有効活用できずにいる。その結果、この国のサッカーならではのエンタメ性は、日に日に低下している。面白さを見出せる高貴な敗戦を数多くこなさないとサッカー人気は後退する。僕はそう思うのだ。