MLB Column from USABACK NUMBER
「本命ヤンキース」と言い切れない理由
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2006/10/05 00:00
レギュラーシーズン最終日の10月1日、プレーオフ出場全8チームの顔ぶれがようやく決まった。どのチームがワールドシリーズを制するかについて、日本では、ヤンキースを「本命」と見る向きが多いようだが、米国では、意外と、ツインズを推す向きが多い。たとえば、スポーツTV・ESPNのベースボール・ライター17人による優勝チーム予想(10月2日現在)を見ても、
ツインズ | 7人 |
ヤンキース | 6人 |
アスレチクス | 2人 |
ドジャース | 1人 |
メッツ | 1人 |
と、ツインズが僅差でトップ人気となっている。ESPNの予想に限れば、「本命ツインズ、対抗ヤンキース」と言っていいほどなのである。
ヤンキースは、1番から9番までずらりとオールスターを揃え、「史上最強」の打線を組んだといわれているが、実は、統計的には、ポストシーズンの勝敗は、打力ではなく投手力と守備力に相関することが知られている。実際、野球シンクタンク「Baseball Prospectus」によると、ポストシーズンの勝敗と相関したレギュラーシーズンの成績は、
1)投手が相手をねじふせる「パワー」度:所属リーグ・球場別で「補正」した奪三振数で評価
2)クローザーの力:平均的投手と比べたときに追加した勝利数で評価
3)守備力:平均的守備力と比べた場合に防いだ得点数で評価
の三つだけであり、打力の指標は一つも相関しなかったという。つまり、ポストシーズンの勝敗を決めるのは、「得点を得る」能力ではなく、「失点を防ぐ」能力だと、データは示唆しているのである。
以下に、プレーオフ進出8チームについて、この三つの成績をMLB全30チーム中の順位で示した。
補正奪三振数 | クローザーの力 | 守備力 | 総合ランク (3つの順位の総和) |
|
ツインズ | 2 | 3 | 14 | 19 |
メッツ | 10 | 5 | 7 | 22 |
タイガース | 23 | 10 | 1 | 34 |
ヤンキース | 19 | 8 | 13 | 40 |
パドレス | 26 | 4 | 11 | 41 |
アスレチクス | 17 | 15 | 10 | 42 |
ドジャース | 18 | 9 | 19 | 46 |
カージナルス | 29 | 21 | 6 | 56 |
「失点を防ぐ」能力で見た場合、ヤンキースではなくツインズが「最強」チームとなることがおわかりいただけるだろうか。
ただ、ここで注意が必要なのは、ツインズは、5月後半にローテーションに加わり、「新人王確実」といわれるほどの活躍をしたフランシスコ・リリアノ(今季12勝3敗)が、肘の故障で戦線を離脱してしまったことである。リリアノは、9イニング当たり奪三振数10.71と、エース、ヨハン・サンタナ(9.44)を上回る「パワー・ピッチャー」であるだけに、ツインズ投手陣が「相手をねじ伏せる」能力は大幅に減少したと言わなければならない(逆にいうと、リリアノが健在だったら、ヤンキースを本命に推す向きはもっと減っていたに違いないのである)。
ヤンキースの強力打線が、「失点を防ぐ」能力の不足を補うに足る得点を上げることができるかどうか、今季ポストシーズンの、最大の見どころと言ってよいだろう。