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From:上空「ベティスとセルティックのグリーンな関係。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/11/24 00:00

From:上空「ベティスとセルティックのグリーンな関係。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

「グリーンと白」のカラーを持っている2つのクラブ、

縦縞模様のベティスと横縞模様のセルティック。

縦横の違いがあるけれど、このクラブカラーにはある関係が……。

 目を覚まし、ふと窓の外に目をやれば、景色は陸地から海に変わるところだった。陸地はイベリア半島。ならば、海はカンタブリア海。朦朧としていた感覚は、徐々に確かなものになっていった。となれば、眼下に広がる街並みは、きっとサンセバスティアンに違いない。思い立つのも束の間、貝殻の形をしたコンチャ湾を視界に捉えることができた。同時に、湾の中央に浮かぶサンタクララ島も確認できた。快晴。光の抜けも抜群に良い。レアル・ソシエダのホーム「アノエッタ」も、苦もなく見つけ出すことができた。サンセバスティアンの街並みは、地図を眺めているかのようにくっきりと浮かび上がった。

 15時10分にマドリード・バラハス空港を飛び立ったKL1704便は、この後、ボルドー、パリの上空を通過して、17時55分、アムステルダム・スキポール空港に到着する。

 週末の大一番は、マドリードで行われたレアル・マドリー対バルセロナの一戦だった。その時、スペインを訪れていれば「クラシコ」を観戦するのが常道だ。しかし僕はその時、セビーリャにいた。アンダルシア・ダービーを観戦するために。つまり、飛行機の出発地はマドリードながら、僕の出発地はセビーリャのサンタフスタ駅で、スペインの新幹線「AVE」に乗車してマドリードまで行き、そこからこのKL便に搭乗したというわけだ。

 前回、僕はこのコラムをセビーリャから発信している。そこでレアル・ベティスの「グリーン」を讃える原稿を書いたワケだが、それからセビーリャに引き続き滞在していたのではない。日本でそれなりに慌ただしい時間を過ごした後、再び舞い戻ってきた次第だ。ご苦労さん。僕は僕に対してそう声を掛けたくなるくらいだが、別に驚くことはないと言い張る自分が勝っていることは事実で、そうしたよく考えれば、馬鹿馬鹿しい行動を普通にやってのけるところに面白みはあるし、僕の存在価値もあるのだと開き直っている。

 それはともかく、ベティス・グリーンについて収穫があったことをお伝えしておきたい。そもそも、なぜベティス・グリーンが、このコラムに登場したか。それはまず、セルティック・グリーンをこのコラムで美しいと讃えたことに始まる。まず僕は、セルティックのグリーンと白の横縞こそ、最もお気に入りのカラーだと書いた。前回のコラムはその訂正版だった。ベティスのグリーンと白の縦縞こそイチバンでした、と。ところが今回の旅で、そのベティスのグリーンと、セルティックのグリーンとの間に、実は深い関係があることが判明した。クラブ創設当時、グラスゴウを旅行したベティスのファンが、セルティックのグリーンに感銘を受け、ウチのクラブのカラーもグリーンにしようと主張したことが、そもそもの始まりだというのだ。横縞ではあまりに芸がないので、デザインは縦縞になったのだそうだ。

 そんな経緯を聞かされた僕は、ますますベティス・グリーンに好感を抱くことになった。僕と同じ感性の持ち主が、ベティス・グリーンの生みの親であったなんて……。感動を覚えずにはいられない。

 そうこうしているとKL機は、ボルドー上空に迫ろうとしていた。バスク地方はこの辺りで終了する。耳に突っ込むiPodシャッフルのイヤホン伝いには「ボーズ・オブ・カナダ」が流れていた。タイミング良く、その美しい電子の音色を耳にすれば、嫌でも国境について連想は及ぶ。スペインとフランスの国境付近に位置するバスク地方には独特のムードが漂っている。スペインでもないし、フランスでもないし……。何より言葉が全く違う。他に類を見ない独自の言語を使う。

 今季のスペインリーグには、そのバスク地方から4チームが1部リーグに在籍する。また、それとはいろいろな意味で対極を成すアンダルシア地方からも4チームが在籍する。仕事できる系のバスクと仕事できない系のアンダルシアと。スペインの魅力を語る時、この4対4の関係は外せないと僕は思う。「クラシコ」も、それはそれで注目すべき試合だと思う。しかし、ここまで情報が溢れかえると、クラシックな感覚は抱きにくい。僕が欧州サッカーに抱いている浪漫チックな感情は湧きにくい。今季の場合、それはむしろ、スペインの北と南に潜んでいる。

 僕の次なる目的地はマンチェスター。アムステルダムはあくまでも経由地に過ぎない。セビーリャ〜マドリード〜アムステルダム〜マンチェスター。欧州を北上すれば、気候も変わる。セビーリャでは20度はあった気温は、マンチェスターではいったい何度だったでしょうか?正解はマイナス・フォー!。まだ11月だというのに吐く息は真っ白。セビーリャが、ベティス・グリーンが懐かしい。

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