Column from SpainBACK NUMBER
レアルよ、クラシコを良い薬にしろ。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2005/11/25 00:00
2004年欧州選手権で、オランダはセミ・ファイナルまで進んだ。02年日韓W杯のドイツは準優勝で、トルコは3位だった。98年フランスW杯のクロアチアは3位で、FWスーケルは得点王。92年欧州選手権では、ユーゴスラビアの紛争勃発により予選グループ2位だったデンマークが本大会出場。バケーションから呼び戻された選手たちは、なんと優勝カップを手にする。86年メキシコW杯のベルギーはセミ・ファイナルでマラドーナ率いるアルゼンチンに敗れたが、シーフォを中心とした記憶に残るチームだった。
これらの国は、すべてプレーオフ(デンマークは代役だが)から勝ち進んできた。だからといってはなんだけど、スペイン代表もドイツではいいところまで進むのではないか。「ブラジル代表は突出しているけど、イングランド、ドイツ、イタリア、ポルトガルとはそれほど力の差がないんじゃないかな」と言ったラウールを、大ボラ吹きだとは思わない。プレーオフから生き残って活躍したこれまでの国々と似たような匂いもする。これは、プレーオフを経験しなければ得ることのできない火事場のクソ力のようなものかもしれない。精神的に弱虫のスペインには、いい薬だった。
スロバキアとのプレーオフの3日後には、レアル・マドリー対FCバルセロナのクラシコが控えていた。ラウール、カシージャス、サルガドにプジョル、シャビといったスペイン代表選手たちのコンディションの不安はあった。しかし、何よりも、ウルグアイ対オーストラリアのプレーオフを戦ったパブロ・ガルシアのテンションの低さは痛手だった。クラシコの勝敗を分けたひとつの要因といってもいい。やはり、戦う気持ちが途切れてしまっていたのか。W杯を逃したショックはわからんでもないけど……。
対照的だったのは先制ゴールを決めたエトー。ガンガンに気を張っていた。彼は元レアル・マドリーであり、昨シーズン、カンプ・ノウで開かれた優勝祝賀会では「レアルのくそったれ」なるマイク・パフォーマンスまでしていたから、レアルのホーム、ベルナベウでは誰もが泣かされると思っていた。元バルサのフィーゴがカンプ・ノウで裏切り者と罵られ続けたように。ところがどっこい、ブーイングはされたものの、前半15分に決めたゴールで早々と観衆を黙らせた。カメルーンも最後の最後でドイツ行きのキップを逃したが、エトーは気持ちを切り替えていた。オレには得点王しかない。バルサだけだ、と。
ところで、後半にもなるとスタジアムは妙な雰囲気に包まれる。同点になる気配がないどころか、追加点を奪われそうな流れだから客席もイラだちを隠せなくなる。そもそも、選手のノリが今ひとつ。気分が乗らないのは何もパブロ・ガルシアだけでなく、ロナウドもベッカムも。観客の怒りは白いユニホームへと注がれる。ジダンがいるじゃないか?悲しいかな、この日はもっともどんクサく映った。
それでも、なんとか気持ちだけでレアルを支えていたのは、いつもながらのラウールだった。思い起こせば彼は何度も中盤の底まで顔を出しては身体を張り、守備との繋ぎ役をも買って出ていた。だからか、59分にラウールが負傷してベンチに下がると、あっさりレアルは崩れていく。ロナウジーニョに切り刻まれた。
ロナウジーニョの2ゴールは確かに信じられない神業である。でも、ハーフラインを越えても、ほとんどプレッシャーをかけていないのはレアルの落ち度だった。当たり前の基本戦術を怠っているようなもので、エルゲラやセルヒオ・ラモスを非難することはできない。中盤が仕事しないのだから、ラインもあげられない悪循環。「バルセロナにはチームプレーから守備の仕方まで教わったよ」と冗談とも思えない発言をしたのは、サルガドだ。
終了のホイッスル。バルサを祝福する拍手がベルナベウに鳴り響く。信じられない光景。まさか、ベルナベウの観客席から罵声以外の行為が起きるなんて。バルサは敵の心までつかんでしまったということなのか。ゴール裏からは「ルシェンブルゴ、解任!解任!解任!」が連呼される。ウワサでは、レアルに見捨てられてもサントスが再び呼んでいるとも。
でも、レアルにとってはいい薬だった。スペイン代表がそうだったように、この時期に危機感を味わうのは悪いことではない。年明けからが真のシーズンともいえるから。クラシコのリターンは4月に訪れる。天王山としては最高のタイミングだ。