MLB Column from USABACK NUMBER
マリナーズが、注目の新戦略で飛躍。
新GMによる「守って勝つ」野球とは?
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2009/12/19 08:00
ズレンシックは就任してすぐに選手だけではなく、監督にワカマツ氏を招聘。今季は復調の兆しが見られるなど、低迷していたチームの方向性を変えることに成功した
1年半ほど前に、マリナーズが、前GMビル・バベシの下で、「アホウドリ」ばかり集めたことを書いた。
しかし、いま、マリナーズは、新GMジャック・ズレンシックの下で、すっかり様変わり。セイバーメトリクスの専門家が目を丸くするような新戦略でチーム作りに励んでいる。
ズレンシックがGMに就任したのは2008年のシーズン終了後。その後、彼は守備がいい選手ばかりを集め、たった1年でマリナーズをメジャーで一番守備が優れたチームに変身させたのである。
こんなことを書くと「ちょっと待て。マリナーズのチーム・エラー数は'08年の99(リーグ6位の多さ)が'09年は105(同4位)と、新GMの下で逆に悪化したではないか」と、いぶかる読者も多いのではないだろうか?
しかし、エラー数が守備の正確な指標とならないことは、セイバーメトリクスをちょっとかじったことがある人なら、誰でも知っている常識中の常識。選手やチームの守備力をエラー数で評価する時代は終わったと見るべきなのである。
ズレンシックGMが着目した「守備防御点」とは?
では、どのような指標を使って守備を評価するかだが、最近、よく使われる指標が「守備防御点(defensive runs saved)」である。ごく簡単に説明すると、「ある選手が守備でどれだけ失点を防いだかを、平均的な選手との比較でシーズンを通して集計」するのである。
言うまでもないことだが、平均的選手との比較なので、守備がよい選手はプラスの数字、逆に悪い選手はマイナス、そして完全に平均の選手はゼロとなる(詳しい説明は別の場所に書いたので、興味のある方は参照されたい)。
例として、'09年の遊撃手の成績を見てみよう。守備防御点で遊撃手の守備力を評価したとき、一番失点を防いだのは、ジャック・ウィルソンの27点。逆に失点が多かった遊撃手の上位2人はオランドー・カブレラ(マイナス33点)と、ユニエスキー・ベタンコート(マイナス19点)。
「ズレンシックは、マリナーズをメジャーで一番守備のよいチームに変身させた」と書いたが、彼は、'09年のシーズン途中、メジャーで2番目に守備の悪いベタンコートを放出するや否やメジャーで一番守備のよいウィルソンを獲得、遊撃の守備を「ワースト2から最高へ」とグレードアップしたのである。