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悔しい大団円。 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2006/08/24 00:00

悔しい大団円。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 甲子園球場に最後まで居られたら、と痛切に思った。この夏、僕が甲子園球場にいたのは8月6日から15日まで。以前は出場校をひと通り見たらそれでOK、と通を気取っていたが、今はできるだけ長く甲子園球場にいたいと思っている。経済状況が許せば本当に最後まで居続けたい。'69年の松山商対三沢高以来となる決勝引き分け、そして翌日の再試合。こんなに劇的な大団円が用意されていたのに、そこにいなかったという悔しさ。駒大苫小牧高対早稲田実の息詰まる戦いをテレビで見ながら、そんなことばかり思った。

 甲子園球場にいたら何を思っただろうか。テレビで両校の熱戦を見ていた僕は批判精神ばかりが旺盛になり、その矛先はもっぱら駒大苫小牧高・香田誉士史監督に向けられていた。どうして香田監督は20日の決勝戦も、翌21日の再試合もエース・田中将大を先発に起用せず、2年生の菊地翔太を登板させたのか。球が上ずり、コントロールが定まらない菊地は、明らかに力不足だった。

 田中が今大会を通じて不調だったことはわかる。今大会どころか、3月以降ずっと調子が出なかったこともわかっている。それでも田中と菊地とでは相手に与える威圧感が違う。さらに、味方に与えるプラス効果にも雲泥の差がある。そして、斎藤佑樹のピッチングを見れば、田中でなければその勢いを止められないと、冷静であればあるほど理解できる。

 「テレビの前で見ている人間と、当事者として甲子園球場で熱くなって指揮を振るう人間とでは考えることが違う」ということだろうか。しかし、いくら考えても田中を先発で起用しなかった理由がわからない。73年ぶり史上2度目となる夏の大会3連覇という偉業は、ついに成し遂げられないまま甲子園大会の幕は閉じられてしまった。

 最後に、今大会で印象に残った試合を紹介していく。これらは、現場で見たものばかりである。

◇8/6 大阪桐蔭高11−6横浜高

 大阪桐蔭高2年の中田翔が8回裏に放ったホームラン。'85年夏、清原和博(PL学園)が高知商戦で放ったレフトスタンドへのホームランに匹敵する飛距離で、スポーツマスコミは推定距離140メートルと発表した。

◇8/8 文星芸大付高11−10関西高

 文星芸大付高が9回裏に4点入れてサヨナラ勝ちした、今大会を象徴するような好ゲーム。両校にドラフト候補が並ぶ中でも、関西高の3番、上田剛史(中堅手)は打球の速さやスイングスピードの速さで群を抜く存在だった。

◇8/9 福知山成美高6−4愛工大名電高

 全力疾走の目安、「打者走者の一塁到達4.29秒未満、二塁到達8.29秒未満、三塁到達12.29秒未満」を記録した選手が福知山成美高に4人(7回)、愛工大名電高に4人(6回)いた。これは今大会の最多と思われる。「投げ合い」「打ち合い」というのはあるが、この試合は「走り合い」。走り勝った福知山成美高はその後も勝ち進み、ベスト8に進出した。

◇8/12 早稲田実11−2大阪桐蔭高

 早実のエース・斎藤が大阪桐蔭高の中田を4打数3三振に切って取った試合。アッパースイングで相手投手を粉砕し続けてきた中田を、合理的な投球フォームの斎藤が圧倒した。中田にとってこの敗戦は勝利以上に有益なものとならなければならない。

◇8/15 駒大苫小牧高10−9青森山田高

 6回表まで青森山田高が7対2でリードしていた試合。6回裏以降、駒大苫小牧高が2→1→3→2点と加えていき、劇的なサヨナラ劇を演じた。この試合の序盤も岡田雅寛→菊地の継投策でしのごうとした駒大苫小牧高ベンチ。田中がリリーフしたとき、局面は青森山田高5対1駒大苫小牧高だった。何度も同じ失敗を繰り返す香田監督は学習能力がないと言われても仕方ない。

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