プロ野球偏愛月報BACK NUMBER
地区で見つけた好投手。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2007/07/31 00:00
夏の都道府県大会を回って好投手9人を見た。太田市商の国定雅幸(左投左打・187/76)、百合丘高2年の鶴岡佑磨(右投右打・177/70)、飯能南高の武藤祐太(右投右打・178/78)、長崎総合科学大付高の徳永圭介(右投右打・181/83)、島原中央高の宇土宏矢(右投右打・181/84)、東海大高輪台高2年の高橋雄輝(右投右打・176/67)、浦和学院の赤坂和幸(右投右打・184/85)、本庄一高の金成繁(右投右打・180/77)、東海大相模高の菅野智之(右投右打・185/78)だ。
この中で取り上げるのが菅野。昨年9月16日の横浜商大高戦とは別人だったからだ。この試合中、偵察隊の他校生徒たちは菅野がリリーフに指名されて投球練習を始めた途端、「手投げ」「重心が高い」と散々な批評を加えていた。試合が始まると高角度から切れ込むスライダーや縦変化のカーブのキレ味がよく、手投げや高い重心は気にならなくなったが、特別目を奪われる存在ではなかった。
ところが7月25日に見た光明相模原高戦の菅野はすごかった。ストレートのMAXは142キロで、自己最速の148キロには及ばなかったが、リリースでボールを押さえ込めるので、低めの伸びが普通の投手とは違う。
さらにいいのが、カットボールと言ってもいい小さく横に変化するスライダー。これを右打者の外角ばかりではなく、内角にもねじ込む。いわゆる「内スラ」と呼ばれるボールだ。これによって打者の踏み込みを容易にさせず、アウトローで勝負する下地を作っていく。正直、こういうボールや技巧を操れる野球頭脳を持っているとは思わなかった。もっと真っ正直なピッチングをする選手だと思っていたのだ。
また面白かったのは1回表のピッチング。右打者には内角で勝負し、左打者には外角で勝負していたのだ。右投手が右打者の内角に腕を振ってストレートを投げるのは難しいので、自然と右打者には外角で勝負することが多くなる、というのが普通の右投手だ。宮城大会で155キロを出して注目度が大きくアップしている仙台育英高の佐藤由規などは、右打者の内角にストレートを投げることすら珍しい。ところが菅野は腕を振って、渾身のストレートを右打者の内角に投げ込むことができる。これだけでも「1つの才能」と言っていいだろう。
プロで似たタイプなら、最初は門倉健(巨人)だと思っていた。しかし、イニングが進むごとに投球フォームやコントロールのよさやボールのキレ味が、200勝投手の北別府学(元広島)と重なった。マスコミは原辰徳・巨人監督の甥っ子という部分にばかりスポットライトを浴びせるが、ピッチングの内容はそんな軽いものではない。卒業後は東海大進学が有望だと思うが、もし本人がその気ならドラフト上位で指名される選手だろう。