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F1界に革命を起こす日本人が登場。
ルノーの技術部門を支える徳永直紀。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byPanoramiC/AFLO
posted2011/05/21 08:00
日産時代にはスカイラインGT-Rのシステムも担当していた徳永直紀。まだまだ他にも開発中の新システムがあるそうなので楽しみだ
「ルノーにはスタートで勝てない」と言わしめた実力。
'04年から'05年にかけて「ルノーにはスタートで勝てない」とライバルチームが舌を巻くほどだった。
当時、ルノーのエンジンはF1界でもっともパワーがあったわけではなかったが、この効率の良さでロケットダッシュを決め、コーナーで素早く加速してライバル勢に先んじるという新しいF1の戦いを確立。'05年と'06年に2連覇を達成した。
現在はECU(電子制御ユニット)が標準化され、電子制御によるローンチシステムは使用できないが、エンジンのトルクの制御をスタート前に最適化して、発進時に無駄な駆動力がかからない工夫がなされているが、これも発想は電子制御によるローンチシステムと同様である。
マシンの開発方法を根本から変える戦略を生みだした徳永。
その徳永はKERS(運動エネルギー回生システム)の開発を手がけ、'10年に副テクニカルディレクターに昇格。チームを牽引していく立場となったいまも、徳永のアグレッシブな開発姿勢は変わらない。
徳永は副テクニカルディレクター2年目となる'11年に向けて、ある変革をチームに提案した。
それはマシンの開発方法である。
「これまでのルノーのシーズンの戦い方というのは、序盤戦でつまずくものの、シーズン中の開発能力によって終盤には表彰台を狙える状態まで回復する傾向が強かった。だったら、開幕時点で出来の良いマシンでスタートができれば、もっと上位争いができるんじゃないかと考えたわけです」
ある程度のところで開発を止めて、信頼性にも配慮した新車を発表して、テストと実戦を重ねながら車両を開発していくというのがこれまでのF1のマシン開発だった。しかし、徳永は従来のやり方を捨てたのである。
新車発表ギリギリまでマシン開発を行い、性能の高い状態からシーズンをスタートさせ、信頼性はテストで確立する。
これが徳永が目指した新しい戦い方だった。そして、そこから生まれた'11年のルノーの新車が、サイドポンツーン前方に排気管の出口を配する革新的なR31だった。