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前田日明 ミドル最強論の衝撃。 

text by

茂田浩司

茂田浩司Koji Shigeta

PROFILE

posted2005/05/12 00:00

 怪物たちがひしめくリング。それが'02年に活動を休止したリングスだった。前田日明が世界中から集めた190cm、100kg以上のヘビー級選手たちは、リング上で凄まじい生存競争を繰り広げた。その戦いを勝ち抜いたのがノゲイラであり、ヒョードルだった。

 そして今、前田はHERO'Sというリングに中量級の怪物を集めようとしている。

 「ヘビー級選手が100人いたら、中量級はその100倍、1万人はいるからね。このクラスは世界中に未知の強豪がゴロゴロいる」

 ――そもそも前田さんが「中量級」に興味を持ったのは?

 「俺の原体験はやっぱりレナード、ハグラー、デュラン、ハーンズ。高校時代に毎日、テレビを食い入るように見てたし、ビデオとかも持ってますよ。レナードvs.デュランなんて、あれが『手に汗握る闘い』だよね。あの頃はヘビー級も霞んでたじゃない」

 ――ボクシング界の主役の座を中量級選手たちがヘビー級から奪い取った時代ですね。

 「そう、ヘビー級で個性といえばモハメド・アリにしかなかったけど、ミドル級は全員に個性があったよ。なぜかと言えば、人類で一番多い中量級では、ホントのオリジナルなヤツしか上がってこられなかったから。

 人間てさ、生まれながらにオリジナルなヤツなんていなくて、自分を認識するためには他人が必要なんだよ。昔、ドイツの帝政のころの最後の皇帝の時代に、ある実験があった。『人間本来の、原型の言語とは何か』を探るための実験で、世界中からあらゆる人種の赤ちゃんを集めて、完全な栄養状態と完全な保育状態、でも言葉は全くかけないで育てた。それで1年経ち2年経ち、どうなるかと思ったらほとんどみんな死んじゃった。人間は自分を認識するために言葉が必要だし、自分の生命を維持するためには他人が必要なんだよ。

 例えばミノムシは、自分の身近にある材料をくっつけてミノを作るじゃん。周りに材料がないとミノは作れないよ。中量級の選手は世界のどこにでもいるし、たくさんの中から上がってくる選手たちは、それぞれが色んなミノに守られてるんだよね」

 ――中量級はヘビー級に比べて粒ぞろいですし、国籍も様々ですね。

 「ヘビー級選手なんて限られてるよね。先進国で、栄養面、食事が豊かで、生活レベルが高いところじゃないとまず100kg以上にはなれないし、団体やら施設やらも必要。でも、中量級は本当にどこにでもいるんだよ」

 ――それでもリングスでは選手層の薄いヘビー級から始めた。その理由は何ですか?

 「当時の日本の格闘スポーツからヘビー級は切っても切り離せなかったよ。会場に来る若い子たちも、今でこそ山本KIDが『強い』と認めるけど、当時は自分と同じ体格のヤツがいくら強いと言っても、俺でもしばけるんちゃうん、と見られた。そうじゃなくて、例えばアンドレ(・ザ・ジャイアント)みたいな大きいな、こんなのリングに立ってどうすんねん、というヤツがいれば、それだけでよかった。当時、俺みたいにプロレスから変形させて総合格闘技をやった連中から見れば、それ無しにはあり得ないよ。ファンを含めて世間一般から注目を集めて、興行ベースに乗せてスポーツマネジメントとして成功させるには、まず大きくて、見るからに強そうなヘビー級だったね。

 それに、最初にミドル級を持ってきて、このパンチは速いでしょ、凄いでしょ、と言ってもキレとか威力なんて分からないよ。ヘビー級から見て知識を付けてからでないとミドル級の凄さは認識できない。K-1MAXだってまずK-1があって、それを固めてからやったから注目された。同じことよ」

 ――リングスでは'93年から始めた80~90kgの中量級メインの実験リーグが1年で終わった。当時はまだ早すぎたということですか?

 「いや、早すぎたこともないけどあの時はリングス本体が忙しすぎた。それに、日本人選手発掘の目論見もあったけど当時は選手も玉石混交だし、今のような選手層もなかったよ。(海外の)各ネットワークには70kg、80kgで凄いヤツが一杯いたんだけど、当時は日本人vs.外国人じゃないと興行が成り立たない。今でこそノゲイラだシウバだと言うけど、当時はそんなのあり得ない話。その部分で一生懸命やって先鞭をつけたのがK-1だったけど、それも苦し紛れでやったことが功を奏しただけだよ。本当はK-1も、日本人の強いのがいたらどれだけ楽かっていう気持ちは今でもあると思うよ」

 ――ところで次回のHERO'Sで予定されるトーナメントは日本人プラス外国人ですか。

 「そうだね。出来たら70kgと80kg級を分けておっきなトーナメントにしたいね。でも、困ったもんで今の若い選手は友達だからとか、一緒に練習してるからという理由でやりたくないと言うんだよ(苦笑)。言いたいことは分かるよ。でもお前らプロだろう、と。そのうち日本ランキングも作らなあかんし、ひいてはワールドタイトルですよ。そうなったら友達も親子も関係あれへん。でしょ?」

 ――総合には魔裟斗vs.KIDのようなトップ選手同士の日本人対決が少ない気がします。でも、一番になりたいなら避けて通れない。

 「そこは歴史が浅いからね。ゴチャゴチャ言わんとトーナメントに入ってしまったらやるしかない。でも、勝ち上がったら誰々君と当たるから僕だけシングルマッチで、とかみんなが言い出しかねない。これ、本気で冷や冷やしてますよ」

 ――それを言っていたら、総合の中量級選手は、永遠に魔裟斗に勝てないでしょう。

 「そう、HERO'SがずっとK-1MAXの下でいいんかっていうことだよ」

(以下、Number627号へ)

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