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バティスタと大化け相場。
~2年連続HR王を狙う「危険な男」~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2011/05/09 10:30
5月1日現在、バティスタの本塁打数は、リーグ首位の9本だ
綴りがBautistaなので、日本語の放送ではボーティスタと発音されることが多い。
ただ、アメリカのアナウンサーはバティスタと呼ぶ。たしかめたい方はMLB.comのビデオ画面を再生してください。こまかいことだが、私はずっと気になっていた。ここから先も「バティスタ」と表記させてもらう。
ホゼ・バティスタはすっかり有名な選手になった。トロント・ブルージェイズの看板打者であることはもちろんだが、いまや大リーグを代表するホームラン・バッターといっても過言ではないくらいだ。
最大の理由は、2010年の大化けだろう。
'09年、バティスタの本塁打数は年間13本だった。ところが翌年、彼は54本のホームランを打ってア・リーグの本塁打王に輝く。前年比41本増の大飛躍である。
飛躍したケースは皆無ではない。
古くは、デイヴィ・ジョンソンの5本('72年)→43本('73年)という例があった。
ブレイディ・アンダーソンも、16本('95年)の本塁打数を50本('96年)に跳ね上がらせたことがある。
だが、彼らの場合は狂い咲きを思わせる量産だった。'74年、ジョンソンの本塁打数は15本に減った。アンダーソンにしても、'97年には18本という「地相場」に逆戻りした。そしてそのあとは、ほぼ平坦な道のり。つまり彼らはある日突然打ち出し、しばらく経つと、発情期が過ぎたサルのようにぱたりとおとなしくなってしまったのだ。
偏向的なまでのレフトへのひっぱり打ちは長所? 弱点!?
だがバティスタの場合は、彼らと同日に論じられないのではないか。
実をいうと'09年の終盤、28歳だったバティスタは、翌年の大変身を予兆させるような活動を見せている。'04年の大リーグ・デビューから数えて6年近くの間に49本のホームランしか打っていなかったというのに、シーズン最後の26試合で10本の本塁打をつるべ打ちしたのだ。
理由のひとつは、打撃の思い切りがよくなったことだろう。凡庸な打者だったころのバティスタと現在の彼をビデオで比較すると、バットスピードが格段に上がっただけでなく、バットの振り出しが相当に早くなっている。早く振り出せば、身体を鋭く回転させて球を強くひっぱることもできる。
というわけで、バティスタ(右打者)の本塁打は、圧倒的に左越えが多い。'09年終盤から'11年4月末までの211試合で彼は73本のホームランを記録したが(うち今季の本数はすでに9本)、そのうち44本までがレフトに飛んでいるのだ。ついでにいうと、中堅越えが18本で、右越えはわずかに1本。
この偏向は弱点になるだろうか。
徹底した外角球攻めに遭ったとき、打撃フォームが崩される恐れはないだろうか。