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雪辱で得た自信、なおも残る疑問。 

text by

戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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posted2005/09/01 00:00

 悪い試合ではなかった。

 磐田、G大阪、浦和、横浜FMに所属する選手、つまり加地亮と小笠原満男と玉田圭司を除くスタメンの8人は、前週末にナビスコカップを戦っていた。14日にゲームがあった中澤佑二と三都主アレサンドロは、中2日でイラン戦のピッチに立っている。

 ナビスコカップに関係のない小笠原と玉田も、中澤、大黒将志とともに8月7日の東アジア選手権の最終戦に出場している。彼らにしても、フィジカルとメンタルはフレッシュな状態に程遠かっただろう。消化試合数や出場時間に多少の違いこそあれ、チーム全体が疲弊していたと言っていい。

 昨年のこの時期にも、代表選手はまったく同じような過密日程を余儀なくされている。8月7日に中国でアジアカップ決勝を戦い、14日または15日にJリーグセカンドステージに臨み、18日にアルゼンチンとの親善試合が行なわれた。結果は1-2の完敗だった。

 ちなみに中澤は、1年前も中2日の強行日程を強いられ、前半だけでベンチに下がっている。試合後には「コンディションの悪さからくる立ちくらみっていうのを、初めて経験しました」と語り、「とにかくこんなにキツい試合は初めてだった」と、憔悴しきった表情で振り返ったほどだった。

 今回もスコアは2-1だったが、日本は勝者として試合終了のホイッスルを聞いた。

 サムエルやリケルメのいたアルゼンチンと、アリ・カリミもハシェミアンもいないイランを、単純に比較することはできない。親善試合とW杯最終予選では試合の意味も異なる。

 しかし、1年前にタイトなスケジュールと暑さを言い訳に敗れた真夏のゲームで、勝利をつかんだのだ。アルゼンチン戦では開始4分に失点を喫したが、この日は序盤から主導権を握ったのも大きな違いだ。

 これほどアグレッシブな試合の入り方をしたのは、少なくともここ1年ほどでは例がない。最初のシュートは11分の玉田まで待たねばならなかったが、そこから一気に回転数をあげていった攻撃はいつもより持続力と迫力があった。30分あたりでひとまずペースダウンするものの、攻勢のなかからきっちりスコアを刻んだのは評価できる。

 「相手の出バナをくじくことを狙っていた。イランは技術的に優れ、早いリスタートやアーリークロスを入れられると相手のリズムになってしまう。劣勢に立たされないために、最初から前がかりにゲームを進めたんだ」

 ジーコ監督はこう語っている。ぼんやりとした試合の入り方とおとなしい対応がチームをおとしめたのは、コンフェデ杯と東アジア選手権に共通する。ようやく教訓が生かされたわけである。おかげで後半は極端に活動量が低下したが、今回ばかりはペース配分のつたなさではなく「余力を残さずに戦った」(中澤)ととらえたい。

 同じ失点パターンを繰り返さない準備もできていた。ジーコ監督が続ける。

 「最終予選でのイランは、6点中5点をリスタートから取っていた。失点しないためには、相手陣内でできるだけ早くボールを回すことがまず重要で、不必要なファウルでリスタートを与えないことにも気をつけた。イランにカウンターを受けないように、プレーの精度を追求したんだ」

 この試合では東アジア選手権のように、DFラインやボランチのゾーンばかりでボールが行き来することはなかった。宮本恒靖や中澤のフィードは、いつもより積極的な意思を帯びていた。福西崇史や遠藤保仁がドリブルでボールを運ぶ場面が何度もあり、ダブルボランチの彼らがそのままミドルシュートを放つ場面もあった。マイボールを失わないための「つなぎ」ではなくゴールを奪うための「トライ」を、チーム全体として心がけていたと読み取れる。

 トライには不必要なファウルを減らす効果もある。FWを走らせるスルーパスやサイドチェンジをカットされても、自陣には必要な人数が残っている。相手陣内でのパス回しであれば、マイボールを失ってもいきなり数的不利に陥ることはないのだ。

 ディフェンスの準備ができていれば、ファウルに頼るような対応をしなくてすむ。リスタートを与える確率も低くなる。フィニッシュまで持ち込めば試合は途切れるから、カウンターを浴びるリスクはまったくなくなる。

 攻めることで守りの準備ができ、CKやFKのリスタートを与えることもなく、カウンターも未然に防げる。イランの前線がどれほど高さを誇ろうとも、日本のゴール前が空中戦の脅威にさらされることはないわけだ。

 実際にこの試合では、韓国戦や中国戦より少ない4本のCKしか与えていない。直接FKは22本許したが、ゴール前の競り合いにつながったのは26分と 32分ぐらい。イランからすれば、ゴール前へダイレクトに供給できるFKが少なかったということだろう。相手陣内でのボール回しは、高い位置からのディフェンスにもつながっていたのだ。

(以下、Number635号へ)

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