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中谷潤人27歳“美しく無慈悲なKO”の全貌「自信満々だった挑戦者が…」無敗クエジャルが味わった“残酷な現実”「完敗という悪夢に呆然としていた」
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/02/25 18:10

無敗の挑戦者クエジャルを粉砕した中谷潤人。3ラウンドのKOシーンでは圧巻のコンビネーションを見せた
中谷潤人の“無慈悲な連打”にクエジャル呆然
この時点で勝負はあったようにも見えたが、中谷はスタートの攻防を「もっと簡単にパンチが当たる意識だったけど、そこまで当てさせてくれなかった」と振り返る。メキシコから日本までベルトを奪いにきた新鋭は上体をよく振って的を絞らせない動きを取り入れていたのだ。
それでもクエジャルの対策が効果を失うまでに時間はかからなかった。中谷が瞬く間に距離を調整し、最近特に意識して練習しているというタイミングを合わせていったのだ。フィニッシュは早くも3回に訪れる。躍動する中谷がシャープで美しく、なおかつ無慈悲なコンビネーションを爆発させたのである。
前に出るクエジャルに対し、中谷はポジションをずらしながら、左右のボディブローを3発決める。「効いたのが分かった」というチャンピオンは左アッパーをボディに突き刺すと、長い右腕を小さく折りたたんで右フックを打ち下ろし、さらに左フック、腰を落とした挑戦者に左ボディストレート、さらにワンツーを叩き込んでクエジャルをキャンバスに突き落とす。「一発当てたら次々に出すことは意識していた」。完璧としか言いようのないパンチの「つなぎ」だった。
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何とか立ち上がったクエジャルに対し、最後はインサイドではなく、アウトサイドからの強烈な左フックを一閃、メキシカンはキャンバスに沈んでいった。尻もちをついた形のチャレンジャーは初めて経験する完敗という悪夢に呆然とし、それでも無意識に立ち上がろうとしたものの、レフェリーが静かに10カウントを数えた。
新ニックネーム「ビッグバン」にふさわしいインパクト抜群の快勝劇だった。これでバンタム級に上げてから4連続KO勝ち。世界タイトルマッチ9試合で8KOをマークし、デビューから節目の30勝を飾った。
試合翌日、都内で開かれた記者会見に参加した中谷の表情は明るく、いつも通りニコニコと笑顔でメディアの取材に応じた。試合が始まってほどなくクエジャルのオープン気味の左フックをブロックした際、右の鼓膜が破れた事実を明かしながら、「子どものころからスパーリングでは何回も破れています。病院に行かなくても1週間くらいで治ります」と軽やかに話す姿に、笑顔に隠されたすごみが漂った。