第101回箱根駅伝出場校紹介BACK NUMBER
〈早稲田大学〉大迫傑と渡辺康幸の早大記録を超えたエース・山口智規(3年)が“花の2区”で挑む三強との真っ向勝負
posted2024/12/23 10:01
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
Nanae Suzuki
これまでたびたび、早稲田大学競走部をめぐって「誰がエースか?」という話題が取り沙汰された。
エースと目された候補は3人。昨季10000mと5000mともにチームトップだった石塚陽士とオールマイティに活躍する伊藤大志の4年生ふたり。そして、爆発的なスパート力をもつ3年生の山口智規だった。別の見方をすれば、突出したエースがいないということでもあったが、3人はひと括りに「トリプルエース」や「三本柱」などと称されることが多かった。
そんな呼称にやきもきしていたのが、人一倍負けん気の強い山口だった。「三本柱って言われるのがちょっと悔しかった」とこぼしたこともあったが、このエース論争もようやく決着の時を迎えようとしている。それも、当の山口によって――。
昨年の夏、3人は駅伝強化プロジェクトのクラウドファウンディングで集まった寄付金でプラハ遠征を敢行。この海外遠征で山口は飛躍のきっかけを掴んだ。3人が出場したレースを制したエチオピアのタデッセ・ウォルクとの出会いが、山口に意識の変化をもたらしたのだ。
ウォルクは2021年のU20世界選手権の3000mで金メダル、5000mで銀メダルを獲得した実力者。山口はレース前日の練習中に話しかけられたのをきっかけに仲良くなり、レース当日や翌日には朝食をともにした。
「彼は年もそんなに変わらないのに、10000mを26分45秒で走っている。それでもシニアでは国の代表になれない。すごい環境で走っているんだなと思いました。日本は良くも悪くも恵まれ過ぎている。『世界、世界』って言っていても、このままでは辿りつくことができない」
長距離の強豪国の現実を見聞きし、目が覚めるような思いをした。そして、また一段高い志で競技に向き合うようになった。
大迫傑を超える成長
その成果はすぐに現れる。それまで時折、調子の波を感じさせることがあったが、安定して高いパフォーマンスを見せるようになった。
帰国後に出場した11月の上尾シティハーフマラソンでは、あの大迫傑(現・ナイキ)が持っていたハーフマラソンの早大記録を30秒以上更新し、1時間01分16秒という新たな記録を打ち立てた。
レース内容も強さを感じさせるものだった。15km以降は独走で他の日本人選手を寄せつけず、序盤に抜け出して先頭を走っていた留学生にも最後は9秒差にまで迫った。
「あそこまでいけるとは……」と山口自身も驚きを口にしていた。その一方で、早大記録を超えられる手応えはすでに掴んでいたという。
「大迫さんは1年生の時の記録。“1年生の大迫さん”には負けられない。憧れの先輩なので、目指す上で絶対に超えなきゃいけない記録だと思っていました」
大迫超えを成し遂げ、いっそう自信を深めた。