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高校で全国3連覇→大学でスランプに…「勝つことへの“怖さ”があったんです」ハードル女王・福部真子(29歳)はなぜ“消えた天才”にならなかった?
text by
加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph by(L)JIJI PRESS、(R)Hideaki Kato
posted2024/12/15 11:01
高校時代から将来を嘱望されたハードラーだった日本記録保持者の福部真子(29歳)。そんな彼女が陥ったスランプと、そこから脱出できた理由は?
福部が、「12秒50を切ってパリ五輪の決勝に進出」をめざすと決めたのは2020年だった。まだ、東京五輪で寺田明日香が日本勢21年ぶりの準決勝進出を果たす前のことだ。当時の日本女子ハードラーにとって、決勝進出は今よりもずっと心理的な壁が高かったはず。それでも福部には、「決勝」以外は頭になかった。
「どうせ忘れられるぐらいの結果ならやらないわぁ、と思っていたので」
福部は高校時代の自分を乗り越え、地元の広島に戻った2022年以降、飛躍的な成長を遂げた。自己ベストは13秒13から、12秒69へとジャンプアップ。大学時代の停滞がうそのように、現在は日本のトップ選手として活躍している。
なぜ福部は「消えた天才」にならずにすんだ?
ただ、中学や高校で活躍した「早熟」の選手が、20代になって以前のような活躍ができないケースは少なくない。福部は、その選手たちと何が違ったのだろうか。
「私には悩みをはき出せる環境があって、それを受け入れてくれる人たちがいた」
2020年の冬、練習の拠点を関東から地元の広島に移す前のことだ。
当面は一人で練習するつもりだったため、「引き出しを多くしたい」と、2人のトップハードラーを訪ねた。寺田と、青木益未(七十七銀行)だ。
どんな練習を、どのような意識でやっているのか。自分がスランプに陥っている状況も伝え、教えて欲しいと先輩たちに頼み込んだ。すると2人は、何一つ嫌がらずに、それぞれのノウハウを共有してくれた。
「そこまで考えているんだって、びっくりしました。それまでは寺田さんも青木さんも、センスがあって、足が速いからすごいと思っていたけど、深く考えていた。足首を固めるとか、どの筋肉を使うとか、細部にまでこだわっていることを知って、そこまで考えないといけないのだと自分の意識も変わりました」
何より大きかったのは、浮上の兆しが見えない自分に、トップクラスの2人が手を差し伸べてくれたことだ。